2022/04/01(Fri)

ヨリマゴ

ヨリマゴ
何がきっかけでというものはなかった。ただ何気なく手を伸ばしてぽりぽりと掻いたその背がふと、目の前の鏡に映ったその姿に手を止める。

(消えないもんだな)

己の過去を振り返ることも、変えることのできない出来事、いかなる場合でも己の選択の末の結果をあとになってどうこうしたいとは思わない。
しかし自身の体中にある大小問わず残る古傷や過去の名残を指でなぞると、どこか陰を落としてこちらをそっと見る幼馴染の顔が目に浮かんだ。
普段は見せないように努めているのがひしひしと伝わる故に、暗闇の中を怯え彷徨い縋るような、それさえおこがましいと自身を更に隅へと追いやってしまう彼を見ては何度も手繰り寄せては抱きしめた。

(あんな顔をさせちゃならねぇんだ)

過去は取り戻せない。しかし以前よりも光のさしたあの笑顔を、なにがどうだとくよくよしている場合ではない。ずっとずっと守っていくと、より一層自身の胸の内がじんわりと熱で満たされていく感覚の中、突然背に何かが触れた。

「ぅおっ!?」
「湯も被らないでぼーっとして、風邪ひくぞ?」

慌てて振り返ればいつからそこにいたのか、真っ白な白い肌にタオルを腰巻きにした、今まさに思いを馳せていた幼馴染がくしゃりと笑うものだから、考える間もなくその身を躊躇いなく抱き寄せては温もりに触れた。

「ちょっ、あぶないでしょ…っまったく」
「抱きしめたかったんだから仕方ないだろ」
「うーん…ううん…まぁ…今回は、ゆるしましょう」

甘えるようにその白く細い肩口にぐりぐりと額を押しつけると珍しくそっと素直に受け止めてくれる彼が自身の褐色にところどころ浮き出た古傷をするりと撫ぜる。
そっと頬に寄せられた唇と濡れる頬にたまらず唇を重ね合わせると拒むことなく小さく微笑むその眩しさに暗がりを跳ね除けてはさらに強くその体を抱きしめた。

ss
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