2022/04/01(Fri)

ルとオ

ルオさん(んぴく)
雨が、降っている。

コツン、カツン、透明なガラス越しに心地の良い音が耳に響く。

いつからここにいたのだろうか。背中に触れる地面は冷えきり冷たいと思っていたような気がしたが今は心地よさと温かさすら感じていた。
何かをしなければならなかった気がした。強く願う何かがあった気がした。
体中あった痛みも薄ぼんやりとして記憶とともに溶けて流れてしまったようだった、指に力も入らない。

(子守唄のようだ)

コツン、カツン。一定に響くその音がとても心地が良くてこのまま瞼を閉じたその先に招かれるまま意識を沈めたい、よく子守唄が下手くそだなんて妻に苦笑されたことを今更ながらに思い出した。頭の隅で一筋の光が掠めたような気がしたが随分と沈みこんだ思考では顔を上げることができない。

「ーーー、」

誰かの声が聞こえる、誰だっただろうか、ぼんやりと覆いかぶさる暗がりにかろうじて開けた瞳にうつる淡い青い光がぼそぼそと、おそらく自分の名を呼んでいる。

返事をしなくては、ああでも、この雨音が、心地が良くて、なにもしたくないんだ。

指先すらもう動かすことはできなかったが、それでも唇だけは僅かに気がつけば動いた。唯一残っていた記憶の残滓を拾ってそのまま口に出すと、ボタン、とひときわ大きな雨粒がガラス越しに落ちてきては時を止めた。

ss
前へ次へ