11.微糖



「先生」
「どうした、名字」

名前が保健室の扉を叩く理由は様々だが、暗い顔をして入ってきた彼女を見ると佐賀美は座るように促す。
そして、手際よくコーヒーを二つ淹れると、名前の前に差し出した。


「ほら」
「・・・砂糖」
「入れた」
「ありがとうございます」


コーヒーを冷ますためか、溜め息か、名前は大きく息を吐いた。


「先生」
「ん?」
「頭、撫でてもらえませんか」

今まで名前から相談や愚痴を聞くことはあっても、直接的な要求はない。
佐賀美は、一瞬目を見開いたものの、笑って名前に手を伸ばした。

「んー、なんだ、こんなんでいいのか?」
「はい」
「こんなおっさんより、誰か・・・」
「先生がいいです」

俯いた名前の顔はよく見えなかったが、髪の間から見える耳は真っ赤になっていた。

「そうか」

今はまだ、それ以上でもそれ以下でもない。
スプーン一杯分の甘さを。