|
プロデューサーが君でよかった。 ばっと勢いよく薫さんを見ると、ものすごい勢いで目を逸らされた。 薫さんから素直じゃない感謝の言葉をもらうだけでも、嬉しくて、くすぐったくて、幸せだった。プロデューサーであることを誇れたし、これから先も頑張っていこうと糧にすることができた。 しかし、ここまで率直な言葉を投げられたのは、はじめてのことだった。 「あ、あの、薫さ…」 「二度は言わない」 いえ、そうではなくて。 髪の隙間からちらりと見えた薫さんの耳は、それはもう真っ赤で。つられて、こっちが真っ赤になってしまいそうになるくらい。 突然どうしたんですか? なにか、変なものでも食べましたか? ……そんなこと言ったら、薫さんはきっと怒るだろう。 信じられないものを見るような目でじいっと薫さんの方へ視線を送る。 「心から、そう……思っている。だから言葉にした、それだけだ」 私の視線に耐えかねたのか、薫さんが口を開いた。 「…そうしないと君には伝わらないだろう」 ぼそ、とつぶやかれた言葉に私は反射的に動いていた。 「伝わってます…!」 こちらを一向に見ようとしなかった薫さんの手をぎゅっと握っていた。驚いた様子の薫さんと目が合う。 「薫さんは、ほんとうに素直じゃないです!でも、いつも不器用なりに感謝を伝えてくれていること、私はちゃんと分かっているつもりです!」 じっと見つめていたら、薫さんが眉を下げて困ったように笑い、まったく、と呆れたようにため息をつく。 薫さんが笑ったことに、今度は私が驚いて。その隙に力の抜けた手が、そっと解かれる。変わりに私の手が薫さんに握られて、ぴたりと動きが止まる。 「はっきり言わなければ君には伝わらないだろうなんて、思っていない」 え?と素っ頓狂な声が出てしまう。 君の表情は分かりやすいからな。 そう言って笑う薫さんは、なんだかとても嬉しそうで、私は何も言えなくなる。 つまり、今、彼は冗談を言った…のだろうか。あの桜庭薫が?と私の頭には疑問符が浮かぶ。 「本当に君は分かりやすいな」 「薫さん…?」 「僕はただ、君の喜ぶ顔が見たかった」 私は今、とても間抜けな顔をしていることだろう。 「なまえ」 普段、名前を呼ばれることなんてないのに。 「素直じゃない、不器用な僕は 嫌か?」 その質問に一瞬きょとんとしてしまう。いつもの薫さんから出てくるとは思えないその問いかけ。 「嫌なわけないです!素直じゃないとこも、人より不器用なところも、薫さんの良さですから」 どうしてこんなことを聞くのだろう。 そう疑問に思いつつも、私は思ったままのことを述べる。それでこそ君だ、と言いたげな薫さんの視線が少しくすぐったい。 「…いつも何気ない言葉で喜ぶ君を見ていて思ったんだ、僕が素直になればもっと、君の笑顔が見られるのかもしれない、と」 その考えは間違いだったようだが、と目を細める薫さん。 今ようやく気が付いたことなのだが――これはもしかして、もしかしなくても、薫さんの“デレ”というやつなのでは。 普段の薫さんではありえないそれは、とてつもない破壊力を持っていた。 しっかり握られたこの手が離される頃には、私はもう“奪われて”しまっているかもしれない。 2016.07.17 |