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お家で作ってお弁当箱に詰めて持ってきた、お昼のオムライス。 賢くんも不在の事務所でひとり、お弁当箱を広げて「いただきます」と手を合わせた、ちょうどその時だった―― 「おはようございます……って、あれ?なまえさんだけですか…?」 午後に予定している仕事の打ち合わせは、時間的にはまだまだ余裕があった。輝さんも薫さんも、まだ来ていない。 まだだよ、と答えるとそうですか、と言いながら翼くんが私の向かいに座ってこちらをじいっと見つめてくる。 視線は、私……のスプーンが狙っている、お弁当箱に注がれている。 「手作り、ですか?」 「うん」 「美味しそうですね」 「翼くん、お昼は…?」 「さっき食べてきたところです!」 「そっか」 じいい。 向けられる視線が、すごく、すごーく気になる。幻覚か、翼くんの口元によだれが見えてきた。なんだか、ものすごく食べたそうな表情をしている気がする。 「ひ、一口…食べますか?」 「わあ!いいんですか?」 ぱあ、と嬉しそうに目を輝かせる翼くん。どうぞどうぞ、とスプーンを渡そうとすると、受け取ろうとしない翼くん。 「?」 「なまえさんが、あーん、してくれませんか」 にこにこ笑っている翼くんの顔が一瞬、悪魔に見えた。小悪魔と言った方が可愛らしいだろうか。……いや、可愛いなんてものではないけれど。 してくれませんか?という問いではなく、是非してください、と断ることを拒否しているようなトーンだった。 「えーっと……」 「いつでもどうぞ」 「……ええい、」 諦める気配のない翼くんに、ヤケになって“あーん”を実行することにした。 ぱく、とその一口を目をつむって受け入れる翼くん。 「ん〜っ……美味しいです!なまえさんの手作り、俺、はじめてです!」 そりゃあそうだ。普段、作ってあげる相手がいるわけでもないから自分で作って、自分で食べるの繰り返しだし。 たったの一口しか食べていないそれに、どうしてそんなに幸せそうな表情ができるのだろう。翼くんの表情を見て少し照れくさくなっていると、控えめに、本当に、控えめに―― 「もう一口、だめ、ですか」 ふふ、と思わず笑いが零れてしまった。 いいよと答える代わりに、もう一度オムライスをすくったスプーンを翼くんの方へ差し出す。 「はい、どうぞ」 「えへへ…いただきます」 言うと、翼くんはスプーンを持っている私の手を掴んで、それを軽く引き寄せてから口に運んだ。 突然の行動に驚いたものの、何事もなかったかのように私の手を離してくれたので、気にしないことに……しようと思う。 美味しい、美味しい、と言ってくれる翼くんに今度何か作ってあげようか?と提案すると、コクコクと何度も首を縦に振り、「お願いします…!」とさきほどよりも目を輝かせていた。 「その時はまた、あーん、してくださいね」 「いや、その時は自分で食べてください」 ちゃんとお箸かフォークかスプーンか、翼くんの分もちゃんと用意するから。そう付け加えると、翼くんはにこにこしながらも「え〜」と不満そうな声。 最近はこうしてたまに私をからかうことを覚えた翼くん。今回の“あーん”や、急に手を掴んできたこと、あとは最近やたら距離が近かったり、スキンシップが増えていたり……。こういう冗談が言えるようになったりしたのは成長で、嬉しくもあるが、翼くんをあまり甘やかしすぎないようにしなければ、と決意した。 2016.07.23 |