※木兎さんのテンションがかなり高め(キャラ崩壊注意)
「あかぁしぃぃぃぃぃぃ」
はぁ……今日も始まった……。
俺はボールを手に持ちながらひっそりとため息を吐く。が、この人にはそんなもの聞こえているはずがない。いや、きっとため息を吐かれようが関係ないのだろう。
このままだと延々と大きな声で叫ばれるので、俺は仕方なく返事をする。(まぁ、2年も一緒にいれば慣れたものだ)
「はい、どうしたんですか」
自分的にはテキトウに返事をしているつもりなのだが、こうなってしまった木兎さんにはまるで通用しない。
「あかぁしぃぃぃぃぃぃ」
「はい」
「名前がそっけない!!!!!」
やっぱり……。
「また怒らせたんじゃないですか」
「うおぉぉぉぉぉ俺はどうすればいいんだあぁぁぁぁぁ」
頭を抱えながら全力で叫びのたうち回る木兎さんにその場にいる全員がまたはじまったよ……といった風に苦笑いをしながらため息を吐く。
そうこうしている間に練習試合の時間がやって来てそれぞれいつものチームに分かれる。もちろん木兎さんは俺と同じチームだ。
嫌な予感がする。今日は久しぶりにあれが来るかもしれないな。と思っていると早速
「赤葦!」
ほら来た。
「今日は俺にトスを上げないでくれ!!」
「分かりました」
「え……」
ずいぶんとあっさりした返答だなと言いたげな木兎さんは肩を落として目を点にしながらコートの端にぼうっと立っていた。
間もなくして試合が始まり、みんなが俊敏に動き、スパイクを打ったりレシーブをしたりと忙しく動いている中で木兎さんだけが宙を舞うボールを目で追いかけながらコートの中をよろよろと歩き回る。今年入ったばかりの1年生たち以外にとっては馴染みの光景だ。
第1セットを終えたところで休憩をしていると、がらりという音がする。体育館の扉が開いた音だ。
「あの〜……」
「名前だ!」
「名前さん!」
救世主が現れた。
みんなは目を輝かせながら次々を名前さんの名前を呼ぶ。それもそうだ。だって名前さんは――
「おおぉぉ!名前!」
「げっ……木兎……」
木兎さんの彼女なのだから。そして唯一木兎さんをコントロール出来る人。
「もう練習終わったかなと思ってたのに、まだやってたの?」
うそだ。名前さんは素直じゃない。
「そうだぞ! 俺たちは」
ここで一瞬だけ木兎さんのテンションが上がる。
「でもちょうどよかった。赤葦、あのね」
「うおぉぉぉおい! 俺は!? 俺のことは!?」
が、
「木兎うるさい黙ってて」
「うがっ」
その後に必ず突き落とされる。
名前さん、今の木兎さんにその態度はまずいですって。
ごめんね、いつもうちの木兎が。
いえいえ、慣れてますから。
あまりにもこういう事が多すぎて最早アイコンタクトで会話を出来るようになってしまった俺と名前さん。
名前さん、ひとことお願いします。
えーっ、今喧嘩中なのよ。
そこをなんとか。
うーん、仕方ないな……。
「木兎」
「……え?」
死んだ魚のような目と淀んだ空気をまとった木兎さん。この世のすべての不幸を背負ったかのように肩を落としながら振り返る。
「ちょっと、そんなんじゃチームのみんなに迷惑かかるでしょ」
「う、うぅ……」
あぁ、これじゃ逆効果だ。もう木兎さん涙目じゃないですか。
「さっきのは帰りにクレープ買ってくれたら許すから」
「……クレープ?」
「そう、一番高いやつね」
「……ってことは」
「一緒に帰ろう。だから、早く試合終わらせて」
なるほど。そういう事だったのか。
その瞬間だった。これまでのが嘘だったのかと言いたくなるほどに木兎さんは元気になり、拳を握りしめそれを震わせると体をのけ反らせて大きな雄たけびを上げた。
「うぅぅおぉぉぉぉぉおっ」
「木兎、うるさい」
「待ってろ名前! この俺がスパイクばんっばん決めてかっこいいとこ見せてやるぜ! 赤葦! 全部俺に持ってこぉぉぉい!」
まったく……この人ってやつは……。
ありがとうございましたと、俺が名前さんにアイコンタクトを送ると
いいのいいの、こちらこそいつもごめんね。
喧嘩もほどほどにしてくださいよ。
……わかってるってば。
「赤葦! 早くこォォい!!!」
「はいはい、今行きますから」
「本当にありがとう」
「いえいえ。名前さん、本当は木兎さんに謝るために来たんでしょ?」
わずかに口角を上げてみると、名前さんは顔を赤くして、違うけどと小さく呟く。
この人は本当に素直じゃない。だけどきっと、木兎さんにとってはこういうところが可愛くて仕方がないのだろう。
これは別に深い意味があるわけではないけど、俺もそんな名前さんを可愛いと思っていたりする。
決して、深い意味はない。深い意味は――。
後日。木兎さんにこの間の喧嘩の原因を訊くと
「いや〜、俺もよくわかんねーんだよなぁ……この間、帰りにクレープ食いたいって言い出したから"クレープなんて食ったら太るぞ"って返したら急に機嫌悪くなってよぉ〜。だって最近太ってきたから痩せるってあいつが言ったんだぞ?おかしいよな?」
あぁ……まぁ、なんともくだらな…………いや、平和な喧嘩だと昼休みの晴れた空を見て俺は思うのだった。
2017 04/01
きっと深い意味はないです。きっと……(意味深)
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