※人間夢主
「出かけるから今すぐ支度しろ」とノックもなしに部屋に突撃してきたスタースクリームにそう言われ、〇〇は呆気に取られた。
 時刻は午前0時に差し掛かった頃で、こんな夜更けに作戦でもなくプライベートで一体どこに出掛けようというのか、と寝る支度を済ませていざ就寝! と布団を被った瞬間だった彼女は、訝しげにスタースクリームを睨めつけたが、「さっさとしろ」と目線だけで訴えかけてくるスタースクリームを前に、布団から出ざるを得なかった。素直に言うことを従わなければ、何か酷い目に合わされそうな予感がしたためである。
 彼女は寝る寸前だったというのに鍵を施錠し忘れていた自身を恨みながら、急いで最低限の身支度を整えて、「用意できたけど」、と部屋の前で待っていたスタースクリームに声をかけると、首根っこを掴まれて、さっさとビークルモードになったスタースクリームはひょいと彼女を操縦席へと乗せて颯爽と基地を飛び出てしまった。
 そうして突然の夜間航行が始まって、しばらく経ったのだが――。
「ねぇ〜、そろそろどこに向かってるのか教えてくれてもいいんじゃない?」
「しつこいな。着いたらわかるんだから黙って乗ってろ」
 さっきからずっと同じようなやり取りの繰り返しである。無理やり連れ出すのであれば、せめて目的地くらい教えてくれてもいいものだが、スタースクリームは一切口を割らなかった。
吹き荒ぶ風がびゅうびゅうとキャノピーに当たっては引き裂かれ、闇夜に流れてゆく。きっと外は凍てつくほどの寒さだろうが、操縦席はなぜか平時よりも暖かかった。その暖かさに寝る直前だった彼女は眠気を誘発されつつも、どこに連れて行かれるかわからない不安から寝ることは憚られた。
「私もう寝るところだったんですけどぉ……! これでしょうもない用事だったら容赦しな、んぎゃっ⁉︎」
 文句の一つや二つでも浴びせてやる、と彼女が息巻いた瞬間、機体が手前側に傾いたかと思えば、がくんっ、と大きく揺れ、重力に従って彼女は後頭部を強かに打ち付けた。
 スタースクリームによる口封じの為の回旋だった。
「ハンッ! 次うだうだ文句垂れやがったら今度は垂直に急降下してやるからな」
「ひっどい! おーぼーだ! 今夜はサンタさんが来てくれるかもなのに寝ずに着いてきてあげたのに!」
「デストロンにサンタなんて来るわけねぇだろう! おっと……それより、そろそろだな」
 言い合いもそこそこに、風切音が穏やかになり、流れてゆく夜空が緩やかになった。彼女は後頭部を擦りながら辺りを見渡すと、そこは先程と変わらず深い黒が広がるだけだった。
「え、もうついたの? まだ結構高度高そうだけど……」
「いいから。下、覗いてみろよ」
「んぇ〜? 私高いところあんまり得意じゃ…………わぁっ……!」
 結構な高さを飛んでいると彼女は思い込んでいたが、知らず知らずの内にじわじわと高度は落とされていたらしい。
 彼女から零された嘆息の一言と共に眼下に広がるは人々の生活が織り成すイルミネーション。そこは世界有数の繁華街、マンハッタンであった。
 もう日付もとうに越えた時刻だというのに、街は溌剌としており、上空までその喧騒が聞こえてきそうなほどの賑わいだった。チラチラとあちこちでネオンサインが輝いて、街ゆく車のハイビームでさえ、ホリデーシーズンの演出に一役買っていた。
 上空から見下ろした眩さに、すっかり眠気も吹き飛んだ彼女だったが、ここで疑問がまた一つ生まれた。さっきのスタースクリームの口ぶりから、ここが目的地で間違いはなさそうだが、どうしてわざわざ彼女を連れてきたのか。それが彼女自身にもとんとわからなかった。
「きれ〜……。でも、なんで眠らない街?」
「……この前イルミネーションがどうのこうの言ってたろ」
「え……、えっ! 覚えてくれてたの」
 確かに、クリスマスシーズンに突入する前に、街へイルミネーションを見に行きたいと呟いたことはあった。だがそれはただの願望で、実際に行動に移すかと問われれば答えは否だった。デストロンたる者、のほほんとクリスマスやイルミネーションを楽しんでいる場合ではないのだ。
 それなのに、こういった浮かれた行事に一切の興味が無さそうなあのスタースクリームが、ちっぽけな人間である自分の為にわざわざこうして夜景を見せようと連れ出してくれたのである。これが驚かずにいられるだろうか。そんなこと口にすれば拗ねるに拗ねて、しばらく口もきいてくれなくなるだろうから言いはしないが。
「イルミネーションとはちと違うが、要はチカチカ光ってりゃいいんだろ。それで、どうだ? 特等席から眺める光の海はよ」
 その問いかけは言葉選びの割にいつもの軽薄さはなく、いつになく誠実さを帯びていた。
「めちゃくちゃ綺麗! そりゃイルミネーションとは違うけど、同じくらい……ううん、それ以上に綺麗だし問題ナシ! 人混みに揉まれることもないし、寒くないし、私の為に連れてきてくれたのにしょうもない用事だったら、なんて言ってごめん。二人で見れてよかった。それと――」
 予想外のシチュエーションに、彼女の興奮もひとしおである。矢継ぎ早に感想を吐き出して、おまけと言ってはなんだが謝罪も一つ。それをスタースクリームは何を思っているのかただ黙って聞いていた。褒められれば褒められただけ調子に乗る彼が大人しく黙って評論を聞くだなんて、そうそうないことだったが、感動と興奮で冷静さを欠いている彼女がそのことに気付ことはない。
 彼女は感情をすぐさま言葉にして伝えるタイプの人間である。その愚直さを、スタースクリームは好ましく思っていた。それ故に、彼女の言葉一つ一つを過敏にとらえてしまうのが、彼にとって悩ましかった。
「それに何より、スタースクリームが私の言ってたことを覚えてくれてたことが嬉しい! ありがとっ、スタースクリーム。あ、そうだ」
「んだよ。まだ文句でもあんのかよ」
 普段から悪態をつかれすぎて、すぐさま悪い方向に予想を立てる彼が可笑しくて、彼女は「文句じゃないよ」と笑った。
 スタースクリームは人間の文化になんて一欠片の興味もないだろうが、例え返事が貰えなくとも彼女はそう言わずにはいられなかった。
「メリークリスマス、スタースクリーム。最高のクリスマスの幕開けね」

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メリクリ。突貫なのでもしかしたら書き直すかも。

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