もちぼっつ再販ありがとう※謎時空

 〇〇は今しがた届いたばかりの宅配物であるダンボールの梱包を解いて、逸る気持ちを抑えながらも蓋を開ければ、まるっこくてずんぐりむっくりにデフォルメされたサンダークラッカーとスカイワープのぬいぐるみが、水濡れ対策のビニール袋越しに、こちらを見上げていた。
 大きな瞳とはいえ、釣り目がちのデザインなのに、なぜこんなに愛くるしい印象を受けるのか。理由はわからなかったが、あまりの愛おしさに、彼女の胸は締め付けられて痛いくらいだった。
 手早く袋から二機とも出して腕に抱えてみると、なんとまあ本人達とは比べ物にならないくらい柔らかく、ふかふかふわふわの固さなんて微塵も感じられない、小さき命かと見紛うほどの可愛らしさであった。思わず感嘆のため息が漏れたほどである。
「はぁ……ほんとになんて愛らしいの……可愛すぎる。ちゅーしちゃおっかな。……ん〜〜まっ」
「おいおい、いい大人が何やってんだ」
「えっ、あ、サンダークラッカー……。おかえり、この子達があんまりにも可愛くて、つい」
 彼女がぬいぐるみにキスした瞬間、部屋に訪れたのは恋人であるサンダークラッカーだった。彼女は少しの気まずさと恥ずかしさを感じつつも、出迎えの挨拶をすれば、サンダークラッカーは「ただいま」と少し照れ臭そうに返し、彼女の前にしゃがみ込み無言で両手を差し出した。これは上に乗れという合図である。いつものようにいそいそとその手のひらに乗り座れば、彼女がよろめかない程度の速さでサンダークラッカーの眼前まで持ち上げられ、ずい、と腕の中を覗きこまれる。
 サンダークラッカーは一瞬怪訝そうな顔をしてから、合点がいったとでも言うようにオプティックを見開き、ゆるりと口端を緩めた。
「こいつァ……俺か? それにスカイワープも。スタースクリームはいねぇのか」
「スタースクリームは買いそびれちゃって。このぬいぐるみ今密かに流行ってるんだよ、サイバトロンとデストロンのファンの間で」
「俺が言うのもなんだが、被害を受けてるっていうのにデストロンにまでファンがいるとは、人間の考えることはつくづくわかんねぇな……。そんで、なんだってぬいぐるみ相手にキスなんてしてんだ」
「えへ、この子達良くできてるでしょ。子供っぽいとは自分でもわかってるんだけど、可愛くてね。あっ、可愛すぎる……もっかいしちゃお」
 むちゅ、と一体に一つずつキスを落とせば、それまで穏やかだったサンダークラッカーの表情が、不貞腐れているのか見るからに曇っていく。せっかく緩んだ口端もみるみるうちに下がり強張ってしまった。
「待て、俺のは百歩譲っていいとして、スカイワープにまでしてんのか」
「え、ダメ? 二人とも同じくらい愛くるしいから平等に可愛がりたくて」
「ダメ……じゃねぇが、いい気分ではねぇ、な」
「えっ、なんで? 可愛がっちゃだめ?」
「可愛がるのは好きにすりゃあいいが……何もキスじゃなくてもいいだろ」
「可愛いものってちゅーしたくならない? ぬいぐるみとか、赤ちゃんとか」
「可愛いものの例に馴染みがないからわからねぇが……というか、本物が目の前にいるんだから、本物にすりゃい――いや、なんでもねぇ」
 しまった、明らかに失言だった。サンダークラッカーは慌てて口を噤んで後悔したが、もう遅かった。今は可愛い物の愛で方について話しているのに、サンダークラッカーは自分でも言うつもりのなかったぬいぐるみではなく自分にキスをしろ、などと言いかけた。というか途中でやめたもののほとんど言い切ってしまった。彼女はキスする相手を探しているわけではないのだ。自分にしろなどとは、見当外れもいいとこだろう。
 それに、こんな事を言えば大人気ないと彼女に笑われるかもしれない。現に彼女はぽかんと口を開けて、不思議そうにこちらを見つめている。何か弁明をしなくては。当たり障りのない繋ぎの言葉を発しようとした瞬間、彼女が閃いたと言わんばかりに目を見開いて、わざわざ言葉にしなくてもいいことを紡ごうとする。
「あ……っ! サンダークラッカー、もしかしてぬいぐるみ相手に嫉──」
 嫉妬してるの、という彼女の言葉はひんやりとした柔さに遮られた。軽く唇同士が重なるだけのそれは、児戯同然の触れ合いだったが、油断していた彼女を黙らせるには充分に感情を含んだものだった。数回唇を啄ばみ、驚きからか固く閉ざされた柔らかな谷間をオマケとばかりにすぅ、と舌先で撫でてから離れれば、口封じ完了である。
「それ以上言ってくれるなよ。わかるだろ」
「……はい…………。もうサンダークラッカー以外にはキスしません……」
「……おう」
 真っ赤な顔で俯いた彼女を見て、サンダークラッカーはなるほどな、と思った。「可愛いものにはキスしたくなる」という彼女の言い分を、今まさに体験し、理解したからである。今にも湯気が上がりそうなくらい真っ赤に染まってしまった彼女に、一体あと何回キスを落とせばスパークをきりきりと締め付けるこの感覚に慣れることができるのだろうか、とひっそりと思いながら、それを明らかにするべく、可愛い可愛い恋人にまた唇を寄せるのだった。

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