「○○、血が」
つぅ、と彼女の鼻孔から滴り落ちるその赤に、ガンマ一号は一瞬で目を奪われた。
「あ」
彼女の一言とともにぽたりと嫋やかな手を汚したそれは、次々と水玉模様を描き留まることを知らない。
一号ティッシュ取って――。
彼女がそう発する前に、一号はがぶりと血の滴るその鼻に食らいついた。
「ひ……」
彼女からたった一音漏らされた悲鳴は、それ以上続くことはなかった。
ひやりとした手袋に後頭部を抑えられ、ぬるりと生温かい舌先が鼻孔に這わされる。
じゅるじゅるとそうするのが当然であるというように、流れ落ちる血液を鼻から直に舐め啜られて彼女の顔が不快感に歪んだ。
鼻孔を吸われる未知の感覚に鼻奥が痛む。
無論彼女は抵抗したかったが、血に塗れた手で彼の肩を押すのは躊躇われた。
こんなときに相手の服の心配かと思われるかもしれないが、それでも後処理のことを考えて彼女は無抵抗にならざるを得なかった。
開きっぱなしになった彼女の口から漏れ出す不規則な呼吸が、一号の喉をくすぐる。
しばらくして、ついでのように唇から顎先まで滴ってしまったものも綺麗に掬い上げられ、ようやくその苦行から解放された。
藤紫がうっすらと赤に染まり、てらてらと艶めいた。
まるで試食でもらったジュースでも飲んだかのような口ぶりで一号が言う。
「甘いな」
「うぁ、なに、を」
今までも片鱗は垣間見えていた。
彼女が少しでも怪我をすれば、過剰なほどに甲斐甲斐しく世話をしたし、生理周期は教えてもいないのになぜか知らぬ間に把握されていた。
血の存在に異様に敏感なのだ。
ガンマ達は人命救助の助けになるように、血の匂いに強く反応するように造られている。
だがこの行動はその備え付けられた機能に起因するものでなく、ガンマ一号の本能から起こされた行動であった。
今この瞬間偶然発露しただけで、これまではただその欲望をなんとか抑えていたのだ。
彼女がマグカップを割って指先を切ったときも。
2日目で立っているのもキツイと寝込み、介抱したときも。
一号はただ耐えてきた。
彼女から香る血の誘惑に。
むっつりと感情を表に出さず、ひたすらに。
覆水盆になんとやら。
抑圧されていた欲は一度解き放たれてしまえば彼の意思とは関係なく止め処なく湧き出てしまう。
「もっとーー」
まだ足りない。まだ味わいたい。
彼女から滴り落ちるその蜜のなんと甘露なことか!
勿体ないと指の汚れすらも舐めとり、彼女の肌が粟立つのを一号は舌先で感じ取った。
じわりとまた、彼女の鼻孔から血があふれ出る。
彼女の怖れが籠った震える瞳に、高揚感と少しの背徳感を感じながら、一号は恍惚とした表情で再び甘い源泉へと唇を寄せるのだった。