ブルマ博士曰く、女性はこういった所謂記念日を祝いたい人が多いらしい。「今日はあの子お休みだし、花でも買って会いに行ってあげなさいよ」というありがたいお言葉をいただき、花屋へと赴いた。
喜んでくれると良いんだが。早く彼女に会いたい、そう思い私は出来うる限りの速さで彼女の家へと飛び立った。
「お疲れ様〜!どうしたの急に会いたいだなんて」
彼女の部屋のインターホンを押すと、応答もなしにいきなり扉が開かれる。不用心だからやめてくれと何度も注意しているのだが……
「お疲れ様、インターホンは――」
「ちゃんとモニターで誰か確認したよ〜。それで?おねぇさんに何の用かな?」
「んん……今日で私たちが交際を始めてちょうど半年になる」
「えっ、そうなの?」
気づいてなかったや〜ごめんね!と明るく謝られる。おかしい、ブルマ博士から教えていただいた情報とかなり相違がある。記念日を祝わないと、大抵の女性は怒ると聞いていたが……。
「そ、それで、女性は花を好むと聞いたので、花束を買ってきた」
「お花!!素敵〜。私、花束なんてもらったことないなぁ」
よかった。今度は彼女も多分に漏れず、花が好きらしい。
はやく見せて見せて!と催促され、背に隠していた花束を意気揚々と彼女に差し出すと、なんと見るも無残にほぼすべての花びらが散ってしまっていた。
「あ……」
「ありゃま」
そういえば買ったときと比較して、ここにきてからは随分と軽くなっていた気がする。まずい。流石に間抜けすぎる。花が生もので脆いものだということを完全に失念していた。呆然とする私をよそに、彼女は私の手から花束をするりと抜き取ってしまう。
「これは……チューリップ、こっちがガーベラ?バラもあるね、あ、これちょっと花びら残ってる」
わずかに残った茎と葉だけで花を判別する彼女を見て、ハッとする。謝らなくては。
「あ、す、すまない!貴方に早く会いたくて、速く飛びすぎたようだ」
「あはは!ありがと!んも〜、嬉しいこと言ってくれちゃってぇ〜」
「……怒らないのか、こんな無茶苦茶な花を手渡されて」
「なんで?会いにきてくれただけで嬉しいもん。喜びはすれど怒るなんてとんでもないよ〜」
きょとりと不思議そうにこちらを覗く瞳は、一片の曇りもなく慈愛に満ちている。随分とおおらかな人だとは思っていたがここまでとは。もし完璧な状態の花を渡せられれば、今以上に喜んでくれていただろう。いっそう花を散らしてしまったことが悔やまれる。
「お花が散っちゃったのは、まぁ確かに残念だけど、そんなしょげないでよ〜」
「しょげてなど……ただ、綺麗な花だったので貴方に喜んでほしくて」
そう伝えると、みるみるうちに彼女の頬が染まり、次第に口許がゆるゆると解れていく。
「ふふ、そんなかわいいことを言う子には、いい子いい子してあげよう」
そう言って少し背伸びをして私の頭を緩くなでる彼女の手は、ひどく暖かく柔らかい。その暖かさがあまりに心地よく、心の底から愛おしさがこみ上げてくる。
「……抱きしめても?」
「わざわざ許可とらなくてもいいよ」
堪らず抱き締めると、微かに残った花の香りと、彼女由来の香りが混ざったものが鼻腔をくすぐる。
「また、花を贈っても良いだろうか」
「もちろん、楽しみにしてるね」
聴覚ユニットのそばで彼女が甘く囁く。
「私はどこにも逃げないから、今度は焦らず、ゆっくりおいで」