「すまないが、あなたの気持ちに応えることはできない」
振られた。ものの見事に玉砕した。
彼のいつものパトロールの順路で待ち伏せして、勇気を振り絞って声をかけて告白したのに、憧れの、敬慕してやまない彼に。
彼は普段テレビなんかで見かけるいつも通りの鉄仮面のまま、謝罪を口にした。本当に申し訳ないと思っているのか疑わしい。
彼曰く、自分はスーパーヒーローあれかしと造られた存在だ。故に一個人を特別視する恋愛感情を持つことはないし、そのようなプログラムも組み込まれていない、と。
なら、その正義の心はどこから沸いてくるのか。慈愛やなにかしら愛の名がつく感情がないと生まれない感情なのではないか。
そう正義心の根源について説明するも彼ーーガンマ一号ーーは何一つ理解できないようで首を傾げるばかりだった。
さっさと諦めさせてパトロールに戻りたいのか「貴方のその気持ちは嬉しい」とか「もっと他に素敵な人が」だとかありふれたマニュアルめいた慰めに、ひどく惨めになった。
だから、死ぬことにした。
喉笛にいつも持ち歩いているカッターナイフを突き立てて、目の前で死んでやろうと思った。そうすれば、多少なりとも記憶に残るかも、なんて考えた。
「そのカッターナイフをどうするつもりだ」
流石に刃物を取り出せば焦るかと思ったのに、彼は眉――といっていいのかわからないけど――一つ動かさなかった。
冷静そのものの声音で、心底理解出来ないといった風に投げかけられた疑問が妙に癪に障った。
「こうすんのよッ!!」
十分に出した刃で喉を切りつけた、はずだった。
「馬鹿な真似は止めなさい」
頭上から感情の読み取れない平坦な声がかけられ、気づけば手の中にあったはずのカッターナイフは随分と遠くに転がっているし、逃げ出さないようにかもう片方の腕は彼の骨ばった手にしっかりと掴まれている。
どうやら切りつける寸前に彼によって弾かれ落としたらしかった。
遅れてやってきた指先の痛みに、そう気づいた。
初めてこんなに急接近したというのに、心底から沸いてきた感情は憎悪だけだった。
「いったぁ!大ッキライ!!離せボケ!!」
意外にもその手はちょっと暴れただけで簡単に離された。
これ幸いと脱兎のごとく逃げ出すも、彼が追いかけてくる気配はなかった。
なにこれ、ほんと最低最悪。
馬鹿な真似って言われた。私は真剣なのに。
ていうか追いかけてこいよ、自殺未遂者が脱走したんだから。
一世一代の告白を、そんな機能搭載していないからと一蹴され、それならせめて記憶に居座り続けてやろうと自殺しようとしてそれすらも阻まれて。
情けない、末代までの恥だ。いや末代はないか、この後死ぬつもりだし。
灯油を頭から被って行ってあいつの目の前で火をつけてやろうか。そうだ、そうしよう。
燃え盛る私を見て告白を断ったことを後悔すればいい。
そうと決まれば灯油なんかの用意しないと。最期なんだから、一張羅を着て、とびきり可愛いメイクをして、それからそれからーー。
大嫌い、ガンマ一号。