西瓜の話
「あ”ぁ〜〜〜重かった」
大袈裟なくたびれた声が玄関に響く。ごとりと大きな物音がして、千代は慌てて玄関へと走った。
「おかえりなさい、真子さんって、わぁ!」
「すごいやろ…」
「どないしたん、これ」
床にごろりと転がるのはそれはそれは立派な西瓜。深緑に黒い縞模様が走るその姿はまさしく夏の代名詞。
「浮竹サンに会うてなぁ、なんか押し付けられたんや。親戚から送られてきたとかでぎょーさんあるんやと」
「はー…立派なもんやねぇ」
ぽんぽんと叩けば実の詰まった水音がする。質のいい証拠だろう。
「けどこれ、どないしょか…うち2人やしこんなにようけ食べられへんわ…」
「よなぁ」
「冷やすとこもあれへんし…あ、」
「どないした?」
「十二番隊舎のすぐ近所に小川があったような…」
あぁ確かに、と平子は身体を起こす。こんなに大きな西瓜を冷やすとなれば、小川くらいしか適当な場所はないだろう。
「そういえばうちまだ新しい隊長さん見たことないんよね。真子さんは会うたんでしょ?なんや色男やって噂聞いたんですけど」
「あかんぞ!」
「ふふ、ええやないですか。ひよちゃんえらい怒り心頭な話は聞いとるんよ、いっぺん会うてみたい」
「一気に行く気なくなってんけど」
「ほらほら、早く」
千代は大きな西瓜を抱えると、一人先に家を出ようと下駄を履く。一歩先でくるりと振り返るとにこにこと平子を見つめる。
「はーーー…しゃあないなぁ」
重い腰を上げると平子は千代の腕から西瓜を取る。
「ありがと、真子さん」
「ん」
外に一歩出ると傾き始めた太陽が夏を誇張する。まだまだ夏は終わりそうにない、広がる空に伸びる入道雲がそう告げていた。
「あっついねぇ」
「行くんなら早よ行こうや」
= = = = =
「ひーよちゃん!」
ふわりと彼女は満面の笑みを見せる。抱き着かれたひよ里は暑い!と千代の腕から逃れようと暴れもがく。千代がいる時はひよ里からいきなり暴力が飛んでくることもなく、気楽なものだった。
「なんでハゲもおるねん!!」
「オレかてオマエの顔なんか見たァありませェん」
「ひよちゃん、西瓜もろたんよ。一緒に食べよ思うて」
「オマエんとこの隊舎裏に小川あったやろ、貸せや」
千代の誘いに喜びつつ平子の傲慢な態度にどちらから返事をすべきか一瞬迷った思考は、後ろの戸が開く音にかき消された。
「あれ、平子サンじゃないスか。どうしたんです?」
「おー、喜助ェ。お前に隊長就任祝い持って来たったぞ」
ぽんぽんと平子は腕に持った西瓜を叩く。浦原はぱちくりと瞬きをした後、ドーモとへらりと笑ってみせた。
「もう就任して4か月経ったスけどねぇ」
「今考えたでしょ、真子さん…」
「あれ、こちらは…」
「お初お目にかかります、四番隊七席平子千代です」
「あぁ、ご丁寧にどうも。浦原喜助です」
頭を下げる千代に浦原もぺこりと繰り返す。
「オレの嫁さんやから手ェ出したらブッ殺すど」
「何アホ言うてんの!」
「はは、怖い怖い」
「ちゅーかオレもう手ェ怠いんやけど。早よコレ冷やさしてくれや」
気怠げな顔で平子はどっこいしょと廊下に座り込む。西瓜を隣に転がすと、早くしろと視線で浦原を急かす。
「立派なもんスねぇ。あ、そうだ。最近現世の冷蔵庫を真似たものを作ってみたんスよ。あれを使えば半刻も掛からずキンキンにできるかと」
「またオマエ訳わからんモン作っとんのォ」
浦原が西瓜を抱えてその機械の元へと去ったあと、千代はこそりとひよ里に耳打ちする。
「優しそうな隊長さんやね」
「あんっなヘラヘラした奴うちは嫌いや!!」
腕を組んで思い切り顔を逸らしたひよ里に千代は苦笑いする。そうやって雑談をしていれば西瓜を抱えた浦原が戻ってきた。
「お待たせしましたっス〜」
「わっ、ほんまによう冷えとる!ありがとうございます、隊長。ちょっと給湯室お借りしますね」
「どーぞどーぞ」
「ひよちゃんも手伝って」
「…しゃーないな」
仕方ないと言いつつ即座に立ち上がったひよ里に浦原は目を丸くする。もしこの顔をひよ里が見ていたら間違いなく蹴りが入っただろうと平子は思案する。
「いやぁ、あんなに可愛らしい奥さんがいるなんて平子サンも隅に置けないっスね」
「ええやろ」
「ひよ里サンと随分仲が良さそうで」
「あいつら霊術院の同期でな、オレより優先されるんや…」
「へぇ」
「少しは上手くやっとるみたいやな」
「えぇ、おかげさまで。何とかなりそっス」
ぽつぽつと会話をするものの、男二人特にこれと言って会話が弾む訳でもなく。平子は早く千代が戻ってこないかとぼんやり入道雲を眺めるのだった。
「お待たせしましたぁ!」
「4人でも食いきれんな、コレ」
「下にも食わせたらええやろ、オイ!阿近!」
ひよ里がちょうど視界に入った小さな少年に声をかける。煩わしそうな表情でこちらを向いた少年は心底面倒くさそうにひよ里に近寄った。
「これ、適当に配っとけ」
「オレ今から帰るとこなんだけど」
「あン!?副隊長の善意が受け取れん言うんか!」
「善意じゃなくて押し売りだろ…」
「ムカッつく餓鬼やのォ」
「アンタと大して変わらないだろ」
阿近と呼ばれた少年に千代はまぁまぁと言いながらお盆を託す。ひよ里ではなく千代に頼まれたお蔭か、渋々と言った様子ではあったが西瓜を配りに行ってくれた。
「あんな子十二番隊におった?」
「コイツが監獄から引っ張ってきたんや、妖怪白玉団子と一緒に」
「監獄じゃなくて蛆虫の巣っスよ」
「似たようなもんやろ!」
「隊長さんのことコイツなんて言うたらあかんよ、ひよちゃん」
やかまし!と舌を出すと半月に切られた西瓜にがぶりと齧り付く。
「わぁ、豪快やねぇ」
千代は薄く三角にされたものを一切れ手に取る。器用に楊枝で種を取るとかぷりとかぶり付いた。
「そんなちまちま食べなや、西瓜はこーやるんや」
平子はシャクシャクと音を立てながら、プッと庭に種を飛ばした。
「ちょっ!?」
「せやぞ、千代。西瓜はこーやるもんや」
驚く千代を他所にひよ里もプププと種を飛ばす。浦原も楽しそうスねぇと同じように倣う。
「えぇ…何それ、庭に種なんて蒔いたら」
「ええから早よ」
「ん、ん〜〜〜…」
ぷっと飛ばしてみたものの、種は千代の足元にぽとりと落ちただけだった。
「なんやの、難しいわ」
「ヘッタクソ〜」
「もう!」
けらけらと両隣から笑われているものの、千代もどこか楽しそうだった。
「えーっと、奥方は貴族の方で…?」
「奥方やなんて。千代で大丈夫ですよ。下級貴族の端くれなんで大したもんでもないですけど一応は」
くすくすと笑う姿も上品で、まさか伴侶が貴族だとはと浦原は平子を見やる。
「ちょ!なんで呼び捨てやねん。千代のことは平子でオレが真子でええやろ」
「あかん!真子さん、それはあきませんよ!」
「なんでや!?」
「痴話喧嘩なら他所でやれや!犬も食わんぞ!!」
平子と千代の間に座るひよ里は心底煩わしそうに平子に食べ終わった西瓜の皮を投げつけた。
ひよ里を咎める訳でもなく千代は笑いながら、濡れ布巾で平子の頬を拭う。恥ずいからやめえと言う平子に、浦原は意外なものを見たものだと彼の印象をこっそりと改めていた。
= = = = =
「楽しかったねぇ、真子さん」
「はいはい」
「ひよちゃん、上手くやれてそうでよかったわぁ。にしても噂通りの色男やね、浦原隊長」
「なっ、オマエ何でオレの前で他の男褒めるんや!?」
「やきもち焼いてくれんのん?」
平子は口をへの字にしたままじっと千代の顔を見つめると、左手を取った。貝殻合わせにしっかりと繋ぐ。分かって言うてるやろ、と指摘すれば楽しそうに千代は笑う。
「うちはうちの為に隊長になってくれるようなアホしか好きやないですよ」
「へぇ、そないな物好きなアホがおるもんやな」
「ほんまにね。…好きよ、真子さん」
手を握り返すと平子はプイと視線を逸らした。空を見上げるとうっすらと月が黄色く輝き始めていた。
「オマエ、今晩覚悟しとけよ」
「えっ、なんでスイッチ入るん…」
「自分の胸に聞いてみい」
「えぇ…」
「そういやなんでオレが真子なんあかんくて、千代はええねん」
呼び方の話や、と付け加えると千代はきょとりとした顔をした後、少し嬉しそうに口元を緩ませた。
「分からんのん?」
「分からんから聞いとんのやけど」
「あかんのよ、真子さん。真子さんは平子サンって呼ばれとってください。ね?お願い」
「オマエ、その顔オレが弱いの分かっとってやっとるやろ…てかちゃんと理由言えや」
「ナイショ、よ。真子さんでも分からんのやねぇ」
至極嬉しそうに平子に擦り寄るものだから、呼び方も些細でどうでもいいものに思えてしまい、平子はため息をつくしかなかった。
大袈裟なくたびれた声が玄関に響く。ごとりと大きな物音がして、千代は慌てて玄関へと走った。
「おかえりなさい、真子さんって、わぁ!」
「すごいやろ…」
「どないしたん、これ」
床にごろりと転がるのはそれはそれは立派な西瓜。深緑に黒い縞模様が走るその姿はまさしく夏の代名詞。
「浮竹サンに会うてなぁ、なんか押し付けられたんや。親戚から送られてきたとかでぎょーさんあるんやと」
「はー…立派なもんやねぇ」
ぽんぽんと叩けば実の詰まった水音がする。質のいい証拠だろう。
「けどこれ、どないしょか…うち2人やしこんなにようけ食べられへんわ…」
「よなぁ」
「冷やすとこもあれへんし…あ、」
「どないした?」
「十二番隊舎のすぐ近所に小川があったような…」
あぁ確かに、と平子は身体を起こす。こんなに大きな西瓜を冷やすとなれば、小川くらいしか適当な場所はないだろう。
「そういえばうちまだ新しい隊長さん見たことないんよね。真子さんは会うたんでしょ?なんや色男やって噂聞いたんですけど」
「あかんぞ!」
「ふふ、ええやないですか。ひよちゃんえらい怒り心頭な話は聞いとるんよ、いっぺん会うてみたい」
「一気に行く気なくなってんけど」
「ほらほら、早く」
千代は大きな西瓜を抱えると、一人先に家を出ようと下駄を履く。一歩先でくるりと振り返るとにこにこと平子を見つめる。
「はーーー…しゃあないなぁ」
重い腰を上げると平子は千代の腕から西瓜を取る。
「ありがと、真子さん」
「ん」
外に一歩出ると傾き始めた太陽が夏を誇張する。まだまだ夏は終わりそうにない、広がる空に伸びる入道雲がそう告げていた。
「あっついねぇ」
「行くんなら早よ行こうや」
= = = = =
「ひーよちゃん!」
ふわりと彼女は満面の笑みを見せる。抱き着かれたひよ里は暑い!と千代の腕から逃れようと暴れもがく。千代がいる時はひよ里からいきなり暴力が飛んでくることもなく、気楽なものだった。
「なんでハゲもおるねん!!」
「オレかてオマエの顔なんか見たァありませェん」
「ひよちゃん、西瓜もろたんよ。一緒に食べよ思うて」
「オマエんとこの隊舎裏に小川あったやろ、貸せや」
千代の誘いに喜びつつ平子の傲慢な態度にどちらから返事をすべきか一瞬迷った思考は、後ろの戸が開く音にかき消された。
「あれ、平子サンじゃないスか。どうしたんです?」
「おー、喜助ェ。お前に隊長就任祝い持って来たったぞ」
ぽんぽんと平子は腕に持った西瓜を叩く。浦原はぱちくりと瞬きをした後、ドーモとへらりと笑ってみせた。
「もう就任して4か月経ったスけどねぇ」
「今考えたでしょ、真子さん…」
「あれ、こちらは…」
「お初お目にかかります、四番隊七席平子千代です」
「あぁ、ご丁寧にどうも。浦原喜助です」
頭を下げる千代に浦原もぺこりと繰り返す。
「オレの嫁さんやから手ェ出したらブッ殺すど」
「何アホ言うてんの!」
「はは、怖い怖い」
「ちゅーかオレもう手ェ怠いんやけど。早よコレ冷やさしてくれや」
気怠げな顔で平子はどっこいしょと廊下に座り込む。西瓜を隣に転がすと、早くしろと視線で浦原を急かす。
「立派なもんスねぇ。あ、そうだ。最近現世の冷蔵庫を真似たものを作ってみたんスよ。あれを使えば半刻も掛からずキンキンにできるかと」
「またオマエ訳わからんモン作っとんのォ」
浦原が西瓜を抱えてその機械の元へと去ったあと、千代はこそりとひよ里に耳打ちする。
「優しそうな隊長さんやね」
「あんっなヘラヘラした奴うちは嫌いや!!」
腕を組んで思い切り顔を逸らしたひよ里に千代は苦笑いする。そうやって雑談をしていれば西瓜を抱えた浦原が戻ってきた。
「お待たせしましたっス〜」
「わっ、ほんまによう冷えとる!ありがとうございます、隊長。ちょっと給湯室お借りしますね」
「どーぞどーぞ」
「ひよちゃんも手伝って」
「…しゃーないな」
仕方ないと言いつつ即座に立ち上がったひよ里に浦原は目を丸くする。もしこの顔をひよ里が見ていたら間違いなく蹴りが入っただろうと平子は思案する。
「いやぁ、あんなに可愛らしい奥さんがいるなんて平子サンも隅に置けないっスね」
「ええやろ」
「ひよ里サンと随分仲が良さそうで」
「あいつら霊術院の同期でな、オレより優先されるんや…」
「へぇ」
「少しは上手くやっとるみたいやな」
「えぇ、おかげさまで。何とかなりそっス」
ぽつぽつと会話をするものの、男二人特にこれと言って会話が弾む訳でもなく。平子は早く千代が戻ってこないかとぼんやり入道雲を眺めるのだった。
「お待たせしましたぁ!」
「4人でも食いきれんな、コレ」
「下にも食わせたらええやろ、オイ!阿近!」
ひよ里がちょうど視界に入った小さな少年に声をかける。煩わしそうな表情でこちらを向いた少年は心底面倒くさそうにひよ里に近寄った。
「これ、適当に配っとけ」
「オレ今から帰るとこなんだけど」
「あン!?副隊長の善意が受け取れん言うんか!」
「善意じゃなくて押し売りだろ…」
「ムカッつく餓鬼やのォ」
「アンタと大して変わらないだろ」
阿近と呼ばれた少年に千代はまぁまぁと言いながらお盆を託す。ひよ里ではなく千代に頼まれたお蔭か、渋々と言った様子ではあったが西瓜を配りに行ってくれた。
「あんな子十二番隊におった?」
「コイツが監獄から引っ張ってきたんや、妖怪白玉団子と一緒に」
「監獄じゃなくて蛆虫の巣っスよ」
「似たようなもんやろ!」
「隊長さんのことコイツなんて言うたらあかんよ、ひよちゃん」
やかまし!と舌を出すと半月に切られた西瓜にがぶりと齧り付く。
「わぁ、豪快やねぇ」
千代は薄く三角にされたものを一切れ手に取る。器用に楊枝で種を取るとかぷりとかぶり付いた。
「そんなちまちま食べなや、西瓜はこーやるんや」
平子はシャクシャクと音を立てながら、プッと庭に種を飛ばした。
「ちょっ!?」
「せやぞ、千代。西瓜はこーやるもんや」
驚く千代を他所にひよ里もプププと種を飛ばす。浦原も楽しそうスねぇと同じように倣う。
「えぇ…何それ、庭に種なんて蒔いたら」
「ええから早よ」
「ん、ん〜〜〜…」
ぷっと飛ばしてみたものの、種は千代の足元にぽとりと落ちただけだった。
「なんやの、難しいわ」
「ヘッタクソ〜」
「もう!」
けらけらと両隣から笑われているものの、千代もどこか楽しそうだった。
「えーっと、奥方は貴族の方で…?」
「奥方やなんて。千代で大丈夫ですよ。下級貴族の端くれなんで大したもんでもないですけど一応は」
くすくすと笑う姿も上品で、まさか伴侶が貴族だとはと浦原は平子を見やる。
「ちょ!なんで呼び捨てやねん。千代のことは平子でオレが真子でええやろ」
「あかん!真子さん、それはあきませんよ!」
「なんでや!?」
「痴話喧嘩なら他所でやれや!犬も食わんぞ!!」
平子と千代の間に座るひよ里は心底煩わしそうに平子に食べ終わった西瓜の皮を投げつけた。
ひよ里を咎める訳でもなく千代は笑いながら、濡れ布巾で平子の頬を拭う。恥ずいからやめえと言う平子に、浦原は意外なものを見たものだと彼の印象をこっそりと改めていた。
= = = = =
「楽しかったねぇ、真子さん」
「はいはい」
「ひよちゃん、上手くやれてそうでよかったわぁ。にしても噂通りの色男やね、浦原隊長」
「なっ、オマエ何でオレの前で他の男褒めるんや!?」
「やきもち焼いてくれんのん?」
平子は口をへの字にしたままじっと千代の顔を見つめると、左手を取った。貝殻合わせにしっかりと繋ぐ。分かって言うてるやろ、と指摘すれば楽しそうに千代は笑う。
「うちはうちの為に隊長になってくれるようなアホしか好きやないですよ」
「へぇ、そないな物好きなアホがおるもんやな」
「ほんまにね。…好きよ、真子さん」
手を握り返すと平子はプイと視線を逸らした。空を見上げるとうっすらと月が黄色く輝き始めていた。
「オマエ、今晩覚悟しとけよ」
「えっ、なんでスイッチ入るん…」
「自分の胸に聞いてみい」
「えぇ…」
「そういやなんでオレが真子なんあかんくて、千代はええねん」
呼び方の話や、と付け加えると千代はきょとりとした顔をした後、少し嬉しそうに口元を緩ませた。
「分からんのん?」
「分からんから聞いとんのやけど」
「あかんのよ、真子さん。真子さんは平子サンって呼ばれとってください。ね?お願い」
「オマエ、その顔オレが弱いの分かっとってやっとるやろ…てかちゃんと理由言えや」
「ナイショ、よ。真子さんでも分からんのやねぇ」
至極嬉しそうに平子に擦り寄るものだから、呼び方も些細でどうでもいいものに思えてしまい、平子はため息をつくしかなかった。