夜明け前の涼風は、火照った身体を冷ますのに丁度良かった。隣でxxが寝息を立てている。規則正しいそれに耳を澄ませ、xxが傍に居てくれていることに安堵する。しばらくその安寧に微睡んでいれば、xxの起き上がる気配がした。寝具が揺れて衣擦れの音がする。
 いかないで。目も開けないまま反射的に手を伸ばそうとして、すぐに思いとどまった。大丈夫、xxは窓を閉めに行っただけだ。すぐに戻ってくる。彼女の体温が残るシーツをなぞれば、待つまでもなくxxはギシリと再びベッドを軋ませた。そのまま二度寝を決め込むのだろう。ふわりと香る彼女の髪の匂いを吸い込んで、柔肌を待った。
 しかし、感じるのは視線だけで、期待していた温もりはやってこない。俺なんか見て、どうしたのだろうか。さては俺の寝顔が珍しいのか。あまり彼女が俺を見つめてくれることはなく、慣れていないので落ち着かない。身じろぎをしようをしたとき、そっと頬にすべすべとしたものが触れた。xxの手だ。優しく撫でつけられ、心臓が甘く音を立てる。
「好きです、零さん」
 しんとした室内に響いた音は、確かに俺へ向けたものだった。明確な言葉で届けられるというのは、かくも嬉しいものか。体温が上がった。ひんやりとしたxxの手が気持ちいいのに、xxに触れられているところが同時に熱い。彼女からの熱がもっと欲しくて、寝たふりをしたままだ。
 俺も、好きだ。今すぐ抱きしめて一日中そう囁きたいところだが、心の中でそっと返すだけにとどめる。xxの微笑む気配がした。
 一番欲しかった言葉を貰った。彼女の気持ちなんて、聞かなくてもわかると思っていた。言葉を交わさずとも分かりあっていると信じていた。実際、繋がっているはずだ。しかし、やはり直接彼女の声で想いを告げられてしまえば、あふれる幸福感は比べようもなかった。ああ、すき、好きだ、xx。愛している。ずっと側にいて。俺から離れていかないで。
 感情が高ぶって、ついには目を閉じていられなくなった。うっすらと目を開ければ、そこにはもう俺の寝顔を見下ろすxxはいなかった。頬を滑る細い指もない。代わりに、毎夜毎朝見ていた、それでも飽きない愛らしい寝顔が横たわっていた。
 ふう。熱く、息を吐く。幽かにxxの髪が揺れた。綺麗な瞳は見えないが、ひどく無防備な唇が光る。それが堪らなく甘く、柔らかく、しっとりとしていて気持ちが良いのを知っていた。
 眠ったばかりの彼女を起こさないように、軽くキスをする。絶対にもう離したりなんかしない。俺の、一番大切なひと。死が二人を別つまで。そんな誓いは必要ない。生まれ変わって、また結ばれる。願わくは、永遠にあなたと。


みるくるさま、リクエストありがとうございました。
嬉しい応援のお言葉ありがとうございます。
おおきなおともだちふるやさん……思い当たる節があります。私も大好きです。とても素晴らしいと思います。

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