AWESOME!
※登場するSCPやその他財団関係者の名前、設定は各scpのwikiページに基づくので参照のこと。


 緊急事態を告げるサイレンのけたたましい音が鳴り響き、赤色のライトがサイト内を照らす。
 クソッタレブライトめ、許さんからな。諸悪の根源を思い浮かべて悪態を吐いた。奴はどんな手を使ったのか、複数のSCPをサイト内に開放したのだ。被害状況は現在把握しきれていない。本当に、何をどうやったらこんな大惨事を引き起こすことができるのか。
 ブライト博士の上機嫌なアナウンスがスピーカーから聞こえる。といっても、キャッキャとはしゃぐ音声が流れているだけなのだが。はぁ、と額に手を当ててため息を吐いた。いつもの悪戯も、ここまで来るとシャレにならない。
「やぁ」
 とにもかくにも、あのイカレ博士を確保しなければと放送室へ向かう途中、柔和な雰囲気の男性が声をかけてきた。本来ここに居るはずのない彼に驚いて立ち止まる。職員の間では神と呼ばれている個体だ。親しみやすい笑みの裏で、一体何を考えているのか。
「あー、その、どうも。与えられた部屋に戻っていただけると嬉しいんですけど」
 引き攣りそうな頬を一所懸命に誤魔化して話しかける。目の前の彼は「うーん」と人差し指で自身の頬を掻くと、意味深に笑みを深くして私の方に手を伸ばした。
 瞬間、目の前が真っ暗になる。何も見えず、何も聞こえない。ただ三半規管だけが重力の方向を教えてくれるおかげで、気分は最悪だ。襲い来る吐き気に意識を手放した。


 どれくらいの時間がたったか分からないが、気が付けば重力の暴力は消えていた。それを認識すると同時に、視界には海と空の青が広がる。どうやら自分は今まで目を瞑っていたらしい。座り込んだ体制のまま、ぐるりと周囲を見回した。
 海岸、だろうか。綺麗な砂浜に白く泡立つ波が寄せては返す。
 頭が少しだけ痛い。それに、だるい。しかし幸い多量な出血もないようで一安心だ。ただちょっとだけ違和感を覚えるのはどうしてだろうか。荷物を確認したが、職員用の端末のみだ。見た所、損壊したり濡れたりの様子はなく無事に使用できそうだ。
「おーい! そこのおまえー!」
 大きな声と共に、麦わら帽子を被った少年がこっちに駆け寄ってきた。骨付き肉を腕に抱えている。少年は私の目の前で立ち止まると、ずいと肉をこちらへ差し出した。
「食え」
 じっと見つめられる。近くで見れば、青年とも呼べる年齢に思えてきた。勢いと強い眼差しに負けて、つい肉を受け取ってしまった。いい匂いがする。しかし相手の言葉そのまま、食べる勇気はない。
「おめー、さっきまで気ィ失ってたろ。そういう時は、肉食うのが一番だからな!」
 黙ったまま何も言わない私に、彼はニカッと笑う。善意なのだということがひしひしと伝わってきた。とりあえずお礼だけは言ってから曖昧に笑う。やはり食べないのは失礼だろうか。手元の肉を見下ろして考える。正直、あんな眩暈のあとでは胃がもたれそうだ。
 私が食べるのを待っているのか、こちらを見つめる青年の視線が痛い。仕方がない、一口だけなら。ブーブー。覚悟を決めて口を開いたところで、端末が震えた。きっと財団からの連絡だ。
「ちょっとごめん」
 肉を一旦青年に返し、視線を下に投げる。ああやっぱり。端末を手に取って応答すれば、上司の声だった。こちらが助けを求めるよりも早く「状況は?」と冷静に問いかけられる。それに僅かだけ安心して、ここに至るまでの経緯と現在の状況を伝えた。
 上司側と私側で話を擦り合わせた結果、ここが地球ではないらしいことが分かった。あの神――SCP-343によってここへ飛ばされたのは間違いないが、となると帰る手段が分からない。不思議なことに、端末であっちと連絡を取れるのが救いだ。
「それで悪いが、お前に任務だ」
 状況把握をひとまず終えると、上司は少しの同情を孕んだ声で告げた。嫌な予感がする。せめてもの逃避に青年の方を見れば、我慢できなかったのか私にくれようとしていた肉を頬張っていた。
「お前と一緒に、いくつかのSCPがそちら側に飛んだ可能性がある。見つけ次第報告し可能であれば確保や収容、保護して欲しい。こちら側でも被害リストを作ってその端末に送ろう。ああ、それと」
 そこで上司は一呼吸おいて、忌々し気に溜息を吐いた。そうしたいのはこっちだ、ブラック企業め。帰った暁には遠征手当てを請求してやる。
「ブライト博士も、おそらくそっちだ」
 ああもう、それは聞きたくなかった。嘘でしょ、と上司に怒鳴ろうとすればそれを察知したのかさっさと通信を切られてしまった。あまりの絶望にその場でうずくまった私に、青年が「元気だせよ」と背中を叩いた。

表紙へ
トップへ