AWESOME!
 半ば放心状態の私を担ぎこみ「肉、食っちまって悪ィな。お前に持ってきたのによ」と青年は私を見遣った。急な浮遊感と揺れに意味のない母音を紡ぐことしかできない。本気で抵抗すればおそらく放してもらえるのだろうがそんな気力は無かった。それにドサリと落っことされて痛いのは嫌だ。どこへ向かうのか尋ねることも出来ぬまま、唯一の持ち物である端末だけは落とすまいとしっかり握りしめた。
 道中、青年は思いだしたように自身をルフィと名乗った。その頃には幾分落ち着いてきた私も名を名乗る。財団のエージェントという職業柄、メンタル面には自信があった。流石に動揺はしたが、立ち直りが速くもないとやっていられない。幸い、ルフィという良い子そうな青年に出会う事も出来た。のっけから食料を分け与えようとしてくれた彼ならば、これからの旅に先立つものを提供してくれるかもしれない。
「よっし、着いたぞ」
 あれこれと考えを巡らせていれば、ルフィくんは腕をぎゅるんと伸ばして船に掴まり飛び乗った。この世界の人間は腕が伸びるらしい。私の世界に帰ればSCP扱いだな、なんて考えてふっと笑みがこぼれた。
「おれの船だ!」
 私の表情を見て、船に感心したのだと思ったのだろう。ルフィくんが自慢げに声をあげる。船を案内しようかと提案した彼に苦笑した。その前に降ろして欲しいんだけどな。私は未だ担ぎ上げられたままだ。
「おいルフィ、誰だそいつは」
 背後から低く声をかけられた。若干の警戒と、大きな呆れが顔を見なくとも伝わってくる。ルフィくんはぱっと私を下ろして隣に立たせた。そして私の背中をバジバシと叩いて「xxだ! さっき仲間になった!」と紹介をする。どんな定義で彼が仲間と呼ぶのかは知らないが、少なくとも私は仲間になった覚えなどない。顔を上げ慌てて否定をしようと口を開いたが、目の前の緑頭をした男の方が早かった。
「そうか。そりゃ災難だな」
 どういう意味だろう。首を傾げるも、緑頭は短く「ゾロだ」と片眉を上げると甲板で寝入ってしまった。ゾロ、名前か。一応ルフィに確認すればその通りのようで、強くて良いヤツだという補足情報まで貰ってしまった。
 それにしても一体いつ私は仲間になったのか。見たところ海での生活を生業としているようだし、商人だろうか。そんな風には見えないから、ただの冒険者かもしれないけれど。抱いた疑問をそのままルフィくんへ投げれば、彼は何を言っているのだとばかりに目を丸めた。
「海賊だ、海賊! おれは海賊王になるんだ。xxもおれの仲間なんだからしっかりしろよなー」
 ルフィくんが指を差した先を辿れば、なるほど海賊旗が見えた。麦わらを被ったしゃれこうべ。ということはルフィくんが船長なのだろう。
「でも私、仲間になった覚えは」
「おいルフィ、何かあったのか……ってうおー、なんと麗しいレディ! ああ海よ、甲板に降り立つ女神をありがとう。おれは貴女に出会うために海へ出たんだ。どうやらこのクソ船長がご迷惑をおかけしたようで。お詫びにこのサンジがとっておきのブラマンジェを振る舞います。どうぞこちらへ」
「え、ああ、どうも」
 流れるような動作で跪き私の手を取る。そのまま肩を抱かれて船内へ繋がるのだろう扉の方へとエスコートされた。サンジと言ったか。この人も大概変なひとだが、ルフィくんよりは話が通じそうな雰囲気はする。大人しくついていけば当然待ったをかけたのはルフィくんだった。
 二人で勝手におれを置いていくなと憤ってから、今度は自分もデザートが食べたいと訴えている。忙しい人だな。それがなんだか愉快に思えて、振り返って彼を見た。子供のように頬を膨らませながらこちらへ近づいてくる。
 おや、と思った時にはもう遅い。サンジくんとルフィくんの私を挟んでの言い合いが始まり、騒ぎを聞きつけた他の仲間らしき人達が集まってきた。あっという間にどったんばったん大騒ぎだ。結局落ち着いて話が出来るようになったのは、それから十分以上経ってからだった。

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