なまえは簡単に恋に落ちる性質だった。気がついたらクラスの男子に元彼が3人はいる状態であったしはたまた他校にも目をつけた男がいる。まあそれなりに彼女は尻軽だとしても許されるようなチャーミングな猫のような瞳をしていたし、甘えたような声はまあ男を虜にしやすいのか俺の幼馴染はよく言えば魔性の女、悪く言えばクソビッチと言う名の類である。俺はまあ面白いから中高揃って笑ってなまえのコロコロと変わる彼氏の話を聞いていたのだけれど最近なんだか面白くない。水族館に行った、だとか年上の男に車でドライブをした、と言う話を聞くと途端に心がムカムカとするのである。別に恋愛をするのは彼女の自由だ。戦国時代みたいに血筋で結婚が決まっているわけではないのだから自由恋愛万歳の世の中だ。ダブル不倫のドラマが流行るくらいだし奔放な時代なのだとわかってはいてもそれでも俺は面白くないのだ。あの子が男の子に奔放なのは俺が女の子の友達をできないように仕向けたから、だとしても面白くない。俺は自分で言うのもなんだけれどそれなりに綺麗な顔だしそれなりに優しいそぶりもできるからわりと女の子に好かれる方だと自覚している。そんな俺と仲良くするだけで小学校の頃からなまえはなんの罪もないのに孤独になり俺に寂しくなったのか近づくようになっていた。「せいちゃん」と俺を呼ぶなまえの純粋無垢で舌ったらずな声はなんと甘美なことであったか俺は忘れられない。こんなに小さい頃から見ていて条件的にも他の男よりもかなり優れている俺に振り向かないあの子は
「かなり趣味が悪いと思うんだよね、柳」
「お前はそんなことばっかりしているからみょうじにあの粘着質きもい死ねって言われている確率120.5%だ」
柳はいつも淡々と俺の話を聞いてくれるから好きだ。だけど粘着質は心外だなあ。
「こんな小学校の頃から愛してくれる男も中々いないだろう?一途って言ってくれ」
「一途も度を過ぎるとストーカー罪にあたるらしいな」
いつもは日光を避けて開くことのない柳の瞼が開いていた。切れ長の瞳には気持ち悪い、とエンドレスで文字が電光掲示板みたいに流れているようだったけれど俺は気にしない。真田とかに相談しようにも的外れな答えが出てきそうだし、それ以外のレギュラーはなんだか俺の恋愛事情を話すにも躊躇われる(もしなまえに手をかけられていたら俺は無言で鉄拳を食らわすと思う)。その点柳は口が固いしまずあれだけ派手な男が好きななまえのタイプではないと思うのだ。
「そんなに好きなら素直に言えばいいだろう」
「俺はいつも愛を伝えてるよ。なまえに好きだから俺と結婚を前提としたセックスをしようよって毎日表現を変えて伝えてる」
「……お前には本当軽蔑するぞ。いくら尻軽だとしてもはじめてみょうじに同情したくなった」
「さすがにテニス部とは付き合ってないよねえ」
照りつく太陽が窓の外から見える。夏はどうやらカップルが楽しい季節らしいから俺だってデートがしたいのだ。俺よりも不細工で俺よりも女の子に気が利かない男が彼女とデートをできる意味がわからない。なんなら世の中のカップルたちが幸せそうで爆発してほしい。俺だってディズニーランドでネズミの耳をつけて浮かれるなまえを写真で撮ったり疲れてクタクタになった後に部屋に連れ込んでアダルティな展開に持ち込みたい。
「精市……」
「なんだい柳」
「お前のみょうじに向けている感情はペドフィリアか?それともただの異常性愛か?」
「ペドフィリアは否定できないかもしれない」
正直なことを言うと小学生の頃のなまえが心に焼き付いて離れないのだ。俺がいないとまるで生きていけないような女になってほしい。だから他の男で今は値踏みをしているだけなんだって思い込みたいのかもしれない。
「でも俺この間なまえに10年経っても好きなら付き合うのすっ飛ばして結婚していいよって言われたんだよね」
「……10年だと?」
「そう、俺が25歳になったらなまえに彼氏がいようと配偶者がいようと独身貴族を堪能していようと俺には結婚する権利がある」
俺はにっこりと笑う。本当は柳がなまえと少しいい感じになっててあわよくば付き合おうとしていることも俺は知っているのだ。かわいそうな柳。だからせいぜい数カ月程度の学生特有の恋愛を楽しんでね。柳の耳元で囁くと彼は微細に震えていた。俺はなまえの振る舞いから26人目に到達しそうな彼氏候補まで何から何まで特定している。そんなのなまえの携帯のロックを解除したらすぐにわかるし、まず柳がなまえの言動を確立で特定できる時点で距離が近いことだって知ってるんだよ。まあいつものように付き合って3日目くらいまでに彼女が振られるように仕向けるんだけど、同じ学校だったら特定って容易だよね。
「他の女の子と付き合って平和に暮らすのと、俺がなまえに好きになってもらうために当て馬になるの、どれがいい?」
「どれも嫌だ」
その唇はもうなまえと重ねたのかい? 手はもう繋いだのかい? その生殖器はもうなまえを知っているのかい? 全部が全部切り落としたいくらいだった。そりゃあ俺だって初恋の子なんだから処女を俺に捧げてもらいたいだろう? それでなまえによく似た女の子を孕んでもらえれば俺は僥倖を得られるのだと思う。
「だから早く俺になまえを譲ってね。まあもともと俺のものなんだけど、お前の男性器の感覚まで失わせてあげるよ」
「イップスをそんなところまで応用するな」