お姉さんらしく

「…………」

レイラはロイドをじっと見つめていた。それはもう、穴があくほど。
それだけ見つめられれば流石のロイドも気付くし、何なら訊ねもした。
だが、「気にしなくていい」の一点張りで理由を答えず、一向に改善する兆しもない。

「なあレイラ、俺そろそろ怒るぞ?」
「えっ!? ご、ごめん……」

呆れ混じりにロイドが告げると、レイラは少し動揺した様子を見せる。
それまでと違った反応にロイドだけじゃなく周りの皆も戸惑う。
それきり、レイラはロイドから視線を外してしまった。

その夜、宿に泊まることになり、男女で部屋割りは分けられた。
そろそろ眠ろうかという頃合いに、リフィルはある相談を受けた。

「姉らしくするにはどうしたらいい……?」
「はい。やっぱり、お姉さんなんだからお姉さんらしくしたいと思うんですけど、どうしたらいいか分からなくて……」

それで、身近な「姉」であるリフィルにアドバイスを乞うたと。
リフィルからすると、まあそんなところだろうとは思ってはいたのだが。

「そうね……私から言えることは、そう特別なことをする必要はないのではなくて? 今まで通りでも十分姉としては十分だと思うけど……」
「それじゃダメなんです!」

レイラにとっては今までの接し方では「友人」としてのもので、「姉」としてのものではない。確かに世話を焼いたりはしてきたが、違う、という意識があるのだ。

「なら、ロイドに直接訊くのが一番早いでしょうね。何をしてほしいか。同じ姉弟でも私とジーニアスのものと、あなたとロイドのものでは全く違うでしょう? 私を参考にしても仕方ないと思うわ」

リフィルから言えるのはこれだけだ。

「あの……」

珍しく、プレセアが話に割って入って来る。思うところがあるようだった。

「姉らしい態度というのは突然身に付くものではない……です。すぐに完璧な姉らしくする必要はないと思います」
「そうね、プレセアの言う通りだわ」

リフィルも同意する。弟や妹が生まれればその瞬間に「姉」という肩書きはつくが、「姉らしさ」といったものはそれと一緒に付随するのではなく、月日を重ねていくごとに身に付くものだ。焦る必要は全く無い。

「…………」

2人に諭されて、レイラは押し黙る。だがそれだけで焦りは消えるものではなかった。

翌日、レイラは早速言われたことを実行する。

「ねえロイド、何かしてほしいことはある?」
「してほしいこと?」
「うん。その……お姉さんとして何かしてあげられないかなって……」

流石に直接言ってしまうと気恥ずかしさがある。
ロイドはしばらく考える。

「うーん……特にないな……」
「ないの!? 何でもいいのに……あ、宿題代わりにやるとかはダメだけど……」
「レイラに特別してほしいことはないよ」
「そ、そっか……」

レイラは肩を落とす。何かしてやりたかったのに、何もしなくていいとは。

「そんなに落ち込むなって」
「……ロイドはずっとお姉さんが生きてるって信じてて、会いたいと思ってたんだよね? だから、折角それが叶ったんだからお姉さんらしくって……」
「そうだけど……特別なことは何もしなくていいよ。俺さ、レイラが姉さんならいいなって思ってたし、本当に姉さんだったの嬉しかったんだぜ? それだけで充分だよ」

レイラは思わぬ告白に面食らう。

「本当に? 私がお姉さんってだけでいいの?」
「本当だって。……あと、いきなり態度を変えるとそれはそれで変な気になるしさ。だから今まで通りでいた方が気楽だろ?」
「言われてみれば……」

今から突然ロイドに甘えられても、確かに変だろう。
お互い、今まで通りが一番自然な形になる。

「なんか……ずっと悩んでたのが馬鹿みたい……どっと疲れた……」

あれこれ考えた割にあっけない結論に、レイラは苦笑いが零れた。

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