思い出
「みーつけたっ!」
「わぁっ!」
草むらに紛れていた(つもりの)男の子は、後ろから声を掛けられて慌てて手足をじたばたさせる。
「またみつかったー!」
「えへへー」
男の子は悔しそうに頬を膨らませる。
何度やってもすぐに見つかってしまう。彼なりにあれこれ考えて試しても、全部見破られてしまう。
「かくれんぼ、もういいもん。あれやろう!」
「うん!」
男の子が次の遊びを提案すれば、女の子は乗る。
「つぎはおねえちゃんにかつもん!」
「かかってこーい!」
お互い負けず嫌いな姉弟は、こうして勝負を続けていく。
*
「姉さんの顔どころか名前だって忘れかけてたけど、そうやってずっと遊んだりしてたのは覚えてたんだ」
「……おねえちゃん、おねえちゃんって、ずっと言ってたもんね」
年月と共にそういった記憶だけが残り、顔や名前は忘れてしまっても不思議ではない。現に、今も父親が分からなくなっているように。
「他には? どんなこと覚えてる?」
レイラは心躍らせながら問うてみた。
レイラは幸せだった頃の記憶がほとんど残っていない。弟の存在すら半ば忘れかけていたくらいに。
けれど、こうして思い出話を聞くと、薄らとながらも蘇ってくる。それが嬉しくて、興味が止まらない。
「そうだな……俺も全然覚えてねぇんだけど……」
ロイドが語り始めたのは、とっておきの思い出。忘れられない、幸せな思い出。
*
父親の首に跨り、高い場所から周囲を見回して、ロイドははしゃいでいた。
微笑ましそうにそれを見ていた母親の腕には、レイラが抱かれていて。レイラは羨ましそうに、ロイドを見上げていた。それを母が宥めるように撫でてやる。
「おそら、きれいー!」
いつもより高い目線で見る空は、子供心に空に近付いたと思ったのか、必死に手を伸ばす。
その夜は、星がよく見えて、星を映したロイドの瞳は輝いていた。
「星が好きか、ロイド」
「うん!」
父はその答えを聞いて、星の話を始める。とはいえ、あまりよく分かっていない様子。というのも当然のことで、それは幼い子供には少し難しいものだったから。それを見守っていた母が笑い出す。
不器用なんだから、と。
ロイドもレイラも母の楽しそうな様子に、意味も分からず笑っていた。
*
「うん、うん……。肩車をしてもらって、星の話を……して……」
ロイドの話を反芻して、レイラは衝撃が走る。
「……あ」
はっきりその時の光景が頭の中に浮かび上がってくる。だってそれは、昔から心細い時に星を数える時、いつも思い浮かべていた光景だったから。
星空を見上げる幸せな家族の光景。ただの憧れ、決してありえない夢だと思っていたそれは、確かに幼いレイラが体験して、残った思い出だった。
「レイラ? どうしたんだ?」
ロイドが不思議そうにレイラを顔を覗き込む。
「えっ?」
「いや、泣いてる気がして……気のせいか」
咄嗟に自分の目元を触ってみても、涙はない。
でも、レイラの心は感極まってて、ロイドはそれを感じ取ったのかもしれない。
「……ありがとう、ロイド」
「あぁ、どういたしまして」
幼い頃の話をしてくれたこと。レイラに幸せな思い出をくれたこと。それだけじゃない。今も昔も、ロイドにはいくら感謝を言っても言い足りない。