クルーウェル先生から課された宿題を早く終わらせる為に、監督生はグリムたちを置いて図書室に来ていた。気分がのらないから後でやると彼らは言っていた。先延ばしにしても、いいことなんてない。
「んー、高い。」
さて、どうしたものか。目当ての本を見つけたのはいいものの、監督生の背丈では到底届かないところにあった。
「何してんだよ、監督生。」
何かないかと辺りを見回していると、背後から名を呼ばれた。レオナ・キングスカラーだ。彼は振り返った先に立っていて、物憂げな態度を醸し出していた。図書室に居るなんて珍しい、目を見開くとじろりと睨まれる。
「クルーウェルにレポート出さねぇと留年にするぞって脅されてんだよ。」
面倒くさそうに頭を搔く。そうなんですか、と返事をして高所にある本を爪先立ちで見つめる。すると、影が差した。レオナが監督生の後ろから覆い被さるかのようにして、本に手を伸ばしていた。あまりの近さに、監督生は息をつぐむ。
「これが欲しかったんだろう?」
「あ、ありがとうございます!」
目を輝かせる監督生に、レオナは「タダじゃあ、やれねぇな」と笑って本を持つ手をひょいと上にあげた。
「えぇ…何をすればいいんですか?」
素直に渡してくれればいいのに。監督生は不満らしい顔を隠そうともせず、レオナを見上げた。
「お礼して貰わねぇとなぁ。お前…ちょっと目を瞑れ。」
監督生は片眉を吊り上げ、気が進まぬままに瞼を綴じた。レオナの指が髪の隙間から覗く耳に触れる。監督生がハッと僅かに開いた口へ舌を押し込む。振り上げた手は軽々と掴まれ、本棚に縫いつけられる。自身の息苦しそうなくぐもった声と、粘着質な音が耳の奥で響く。体温が急激に上がっていくのを感じた。温かくて肉厚なソレが乱暴に口内をかけづる。初めて経験するゾワゾワと得体の知れない感覚が腰からこみあげた。
「や、っん…ぁ、っ。」
たった数分が何時間にも長く感じた。本棚に縫いつけられていた手は、いつの間にかレオナの胸板に弱々しく添えられている。なんとも情けない。しかし、そんなことは監督生の頭になかった。考える力さえ融けて、奪われていたのだ。
「っ…は、ぁ…。」
漸く、レオナが離れた時には力が抜けていた。乱れた息を整えながら呼吸を繰り返し、はらりと零れた涙を震える指で拭う。レオナは、その場にへたり込んだ監督生の傍に本を置いた。
「ごちそうさん。」
そう言いながら、下唇を舐める。扇情的な仕草に目が離せない。自分に了承なく勝手にキスをして平然と笑っているレオナに、視線まで奪われたことが悔しいという気持ちになった。
「その蕩けただらしねぇ顔で彷徨くなよ。」
ハンっと鼻で笑う。
「…こんな顔にしたのは、貴方なのに。」
そう吐き捨てて、薄く膜の張った瞳を悔しげに歪める。ぞわり。レオナは興奮して身体中の毛が逆立つのを感じた。無意識なのだろう。それは、彼の加虐心を煽るのには充分であった。
「ははっ。そうやって雌の顔して煽るのは、俺だけにしておけよ。他の雄にやったら…咬み殺す。」
レオナはたじろぐ監督生の顎を掴み、もう一度その唇に噛みついた。