平日の昼下がりのショッピングモールは人通りが落ち着いていて、休日に比べて物静かだ。小綺麗な服装を纏ったマダムが悠々と買い物を楽しんでいる姿がちらほらと見受けられる中、とある一角の店頭で澄んだ水の色をした見知った頭を見つけた。

「ん? あれは……」

レディース向けのアクセサリーが並ぶショーケースをじっと眺める後ろ姿は、タワーでよく見る白衣の代わりに白い清楚なワンピースを纏い、ラベンダー色に淡く染まったストールを軽く羽織っている。その佇まいはとても品良く見え、ブルーノースの街並みによく馴染んでいると思った。
レッドサウスでのさばっていた自分との住む世界の違いを見せつけられたようで、声をかけるのを一瞬躊躇ったが、今はこの街を守るヒーローなのだからと臆病に竦む足を奮い立たせた。

「セレーナ、今日はオフなのか?」
「きゃっ! ア、アドラーさん……?」

なるべく不審に思われないように自然体を心がけたつもりだったが、背後から声をかけると華奢な肩はびくりと大きく跳ね、体ごと振り返ってこちらを見上げる彼女の顔はひどく動揺していた。
早速、失敗してしまったらしい。せめて隣に立った方がよかったか。などと深く反省しながら、あくまでも平然を装って振る舞う。

「おぉ、驚かせちまったな。ごめんごめん」
「い、いえ。アドラーさんは、パトロール中……でしょうか」
「まあな。今は休憩中だけど」
「そう、でしたか」

言葉を交わしていくうちに警戒心が解けたようで、彼女の様子が穏やかに落ち着いていくのを確認すると密かに胸を撫で下ろす。

「今日は一人で買い物か?」
「はい。お買い物といっても、特に何かを買いに来たわけではないのですけれど……気分転換に、少し」
「なるほどな。確かに、あてもなく色々見て回るのって結構楽しいよな。新しい発見とかもあったりするしさ」
「買う予定なんてなかったのに、気になったらうっかり手に取ってしまったりして」
「あぁ〜、わかる! そうやって、気づいたら結構無駄遣いしちまってるんだよなぁ」

思っていたよりも会話は和やかに捗って、声をかける前の自分がいかにちっぽけなことで怯んでいたかと思うと急に体が軽くなった気がした。
彼女はいつも真剣にこちらの話に耳を傾けてくれるし、くだらないとあしらうこともない。特に恐怖心を拭うようになってからは穏やかな笑みを湛えて快く聞き入ってくれるものだから、嬉しくてつい夢中になって何でも話してしまう。うっかり喋りすぎたかもしれないと不安になることがあっても、彼女は咎めることもなければ嫌な顔一つせず受けとめてくれるから。
今だってそうだ。彼女は控えめに添えた片手で唇を隠しながら、くすくすと軽やかな笑い声をこぼしている。

「アドラーさんと一緒にお買い物に出かけられたら、とっても楽しそう」
「へっ……!?」

時々、こうして無邪気な不意打ちに射止められることもあるが。わかりやすく狼狽えるこちらの反応を受け、彼女も無意識に吐露したらしい言葉の意味を自覚して慌てふためきだした。

「あっ、いえ、その、今のはあくまで想像のお話でっ! アドラーさんはヒーローとしてお忙しい身ですし、決してお誘いしているわけではありませんので、どうかご安心を!」

恐らくは遠慮してくれているのだろうが、必死のあまりもはや拒否に近い形で断りを力強く押しつけられ、少々複雑な心境に陥れられた。いっそ我儘に誘ってくれたなら、浮かれながら乗っかってしまえただろうに。
しかし、せっかく訪れたチャンスを逃すわけにもいかない。ここ最近、悶々と懐に留まりながらも吐き出し損ねていた欲が、思いがけず叶うかもしれないのだから。

「あのー……俺も今、あんたと一緒に出かけたらきっと楽しいんだろうなって想像しちまったんだけどさ」
「えっ?」
「だから、その……今度、オフの日合わせて一緒に遊びに行ったりできたらなぁ、なんて……思ったりして……?」

ろくに目も合わせられず、恐る恐る曖昧な誘い文句を口ずさむ声は緊張に小さく震えた。我ながら情けない様にいたたまれなくなったが、きょとんと目を瞬かせていた彼女は遅れて理解したらしく、次第に畏縮とほのかな期待の狭間に表情を揺らがせた。

「よ、よろしいのですかっ? 貴重なオフですのに、私のために使っていただくなんて、なんだかすごく申し訳なくなってしまうのですけれど」
「いやいや、それを言ったらあんただってそうだろ? ……もしよかったら、あんたを俺のオススメの店に連れて行ったりしてみたいなぁって思ってるんだけど」
「まぁっ、それはとても興味があります! アドラーさんなら私の知らないお店をたくさんご存知でしょうし、ぜひご一緒させていただけると嬉しいです」

思いの外食いつきが良く、嬉しそうに綻ぶ顔を見ているとこちらの頬まで緩んでしまう。

「そうと決まれば、今度のオフが楽しみになってきたな」
「はい、私も楽しみです」

にこやかに頷く彼女を心躍る気分で眺めながら、もう少し早くに誘っていればよかったとささやかな後悔を覚える。だけど、このくらいの慎重さがあったからこそ今のような関係があるのだとも思えて、せめて一つ一つの機会を大切にしていこうと誓った。
だから、今のこの偶然もあっさりと手放したくはなくて、もう一つの小さな勇気を手の中に振り絞って握りしめる。

「……なぁ。今せっかく会えたんだし、ちょっとの間だけど、一緒にいてもいいか?」
「えっ。今、ですか?」
「あ、いや、今はそんな気分じゃない〜とか、気が散るからどっか行ってくれ〜っていうんだったら、大人しく退散するけど。俺も気分転換したいな〜っていうか」

相手の些細な表情の変化を読み取って予防線を張るのは、もはや癖のようなものだ。拍子抜けしたように目を丸めて首を傾げる彼女の視線を受け、はっきりと拒否されたわけでもないのに思わず逃げ腰になった。
しかし、ふっと細められるアクアマリンの瞳は優しさを注いでくれる。

「いえ、そのようなことは。私も、アドラーさんが一緒の方が楽しいですから」
「お、本当かっ? じゃあ、甘えさせてもらおっかなぁ」

好意的な言葉に気分良く乗せられ、すっかり舞い上がってしまう。ひょっとしたら社交辞令のようなものだったのかもしれないが、彼女が向けてくれる温かな表情を見ればきっと本心なのだと信じられた。

「ところで、随分と熱心にこの店見てたみたいだけど。何か欲しいものでもあったのか?」

改めて彼女の隣に立ち、ショーケースの中やその上のガラスの棚に並ぶアクセサリーを眺める。棚に陳列する品も透明な袋に保護されており、どれもそこそこに値が張るものばかりだとわかる。

「いいえ、とても綺麗だと思って見ていただけですよ」
「ふーん……?」

ちらりと横を盗み見ると、どこか羨望のような眼差しが真っすぐにショーケースへと向けられているのに気づいた。
思えば、初めこそレッドサウスの街で一般市民としての彼女と出会ったものの、以降はタワーの中でしか顔を合わせていないせいか、制服の上に白衣を纏うだけの飾り気のない姿ばかり目にしてきたが。

「そういやあんた、アクセサリーとかつけてるの見たことないよな。一つくらい持ってないのか?」
「ううん、なかなかこういったものを身につける習慣がないものですから。普段はラボに籠りがちで外に出る機会もそうありませんし、持っていても宝の持ち腐れになりそうで」
「えぇー、こういうの絶対似合うと思うのに」

別にそのままでも十分に可愛らしいとは思うが、着飾ればもっと映えるのにとお節介ながらにも感じていたものだから、自信のなさそうに語る彼女につい力強く押してしまった。
呆気に取られた彼女は、静かに目を瞬かせる。

「そう、でしょうか? 私、自分に似合うものがわからなくて」
「だったら俺が一緒に選んでやるから、今度俺と遊びに行く時につけてくれよ。もし俺のセンスが信用できないっていうなら、責任持って俺が払うからさ」
「いえいえっ、それはさすがにいけません! アドラーさんのセンスは信用していますし、きちんと自分で買いますのでお気遣いなく!」
「そ、そうか?」

あからさまに恐縮した様子で首を横に振る姿を前に、さすがに今のは厚かましかったかなと省みて少々ばつが悪くなってきた。
落ち着きを取り戻して再びショーケースに目を向ける彼女は、じっくりと煌めきの数々を眺めながらも、どこか困惑気味に首を傾げる。

「しかし、こんなにたくさんあると選ぶのも大変ですね」
「うーん、そうだなぁ。あんたには、こういうシンプルなようで繊細な感じのデザインが合ってると思うんだよな。ほら、これとか」
「なるほど……」

ふと目に留まったシルバーのネックレスを指差すと、水色の頭が興味深そうに相槌を打った。透き通る水の色とさらに深い海の色の美しいグラデーションの輝き秘めた、小さな雫の形の宝石がトップに佇んでいる。
なんとなく彼女を連想して指したものだったが、それほど特別に惹きつけられるものでもなかったらしい。吟味する視線は、まだ迷っているようだ。

「ま、あんた自身が気に入るものじゃないと意味ねぇし、じっくり探してみようぜ」
「は、はい。ありがとうございます」

急かすのも良くないと判断して気遣うと、それが伝わったのか少しほっとした顔で頷いてくれた。
まだ休憩時間は残っている。他のショーケースを眺めながら思い悩む彼女に付き合ってやるだけの猶予はまだあるはずだ。
途中、店員の女性に声をかけられてアドバイスを貰ったりする中で、少しずつ欲しいと思えるものが彼女の中で絞られてきたらしい。ショーケースの間を行ったり来たりする足が、次第に積極的になっていった頃。

「あら?」
「ん? 何かいいモン見つかったか?」

何かに目を惹かれた彼女は不意に立ち止まると、棚の上で袋に守られた小ぶりのイヤリングにそっと手を伸ばした。天使の翼と連なる透明な宝石の下に、エメラルドグリーンの石が小さく吊られている。それを繊細な注意を払って手にすると、何故かおもむろにこちらの顔の横に掲げだした。

「ど、どうした……?」
「アドラーさんの瞳と同じ、綺麗で優しい色」
「へっ?」
「私、これが気に入りました」

ぽつりと呟かれた言葉の真意を捉え損ねて呆然としていると、彼女の顔が幸せそうに溶けていった。その意味をやっとのことで理解したと同時に、柔らかく心を掴まれて息を詰まらせた。
返す言葉を失い、熱に浮かされて真っ白になった思考で固まっていると、勘違いをした彼女の顔に不安が微かに滲み始める。

「あ。もしかして、似合わない……でしょうか」
「いやっ、そんなことないけど。むしろ、あんたにはぴったり……だと思う……」

あんたって天使みたいだし。なんて、慌てて捻り出した言葉を最後まで声に乗せることはできなかったが、彼女を喜ばせるには十分だったらしい。翳りかけていた不安を拭って晴れやかになった笑顔は、とても輝いて見えたから。

「本当ですかっ? よかった。これでますます、アドラーさんとお出かけするのが楽しみになってきました」
「そっ……か……そりゃあ、よかったな……ははっ」
「では、早速お会計を済ませてきますね」
「お、おぉ……」

精いっぱいの笑顔で応えてみせたが、イヤリングを持ってレジへ向かう彼女の後ろ姿を見届けている間に呆気なく崩れ去ってしまった。緩く締まりのない口元は手で覆い隠すしかなく、体に疼く熱をぼやきと共に一人吐き出す。

「おいおい、今のは反則だろ……」

先日、彼女は勘違いしてしまうと言っていたが、これではこちらまで勘違いを起こしてしまいそうだ。彼女の意図する勘違いが、自分の想像するものと合致しているかどうかは定かではないが。
こんなだらしのない顔、パトロールでは見せられない。戻るまでにはどうにか鎮めなければと、彼女の見ていないうちにいくらか深呼吸を試みた。


満足げな彼女が戻ってくるのを迎える頃には、少なくとも顔の熱は落ち着いたように思う。表情の崩れ具合も先程に比べてきっと緩やかになった、はず。
そろそろ戻る頃合いだ。休憩時間をどう過ごそうかと悩んでいた矢先、彼女のおかげでちょうど良い時間潰しになった。むしろまだ時間が足りないくらいで、戻るのも惜しくなってしまうが。

「ところで、ここには何時ぐらいまでいるつもりなんだ?」
「えっと、そうですね……まだそれほど滞在していないので、もうしばらくはいるつもりですけれど」
「そっか。だったら、パトロールが終わるまでここで待っててくれないか?」
「えっ?」
「ほら、この前のタワー襲撃からイクリプスの動きが活発化してるっていうし、何かアクシデントに巻き込まれたりするかもしれないだろ? ノースが他より治安いいとはいえ、女の子一人より俺が一緒にいた方が帰り道も安全だと思うし……」

少しでも長く一緒にいるための単なる口実……というわけでもなく、純粋に身を案じているというのは本心だった。そもそも彼女と初めて出会ったのが危険の差し迫る状況であったために、どうしても放っておけないという印象が今も強く残っている。

「しかし、同じ研修チームの方々と一緒にお戻りにならなくてよろしいのですか……?」

悩ましげに眉を下げる彼女も、遠慮こそすれど強く断るといったことはしなかった。彼女自身にも思うところがあったのだろう。
だったらなおさら、心置きなく頼ってもらえるように遠慮を取り除いてやらねばと、快く振る舞う。

「あぁ、それなら大丈夫だ。前にも言ったと思うけど、ウチは個人主義でどいつもこいつも協調性の欠片もないから、パトロールは基本的に単独行動だし、帰りも大体バラバラなんだよな」
「それは……大丈夫といっていいのでしょうか……」
「ははは、やっぱそういう反応が普通だよなぁ」

至って心配そうに向けられる視線がなんだか痛く感じて、嘆かわしく苦笑いを浮かべた。近頃は現状に慣れて自分の感覚がおかしいのだろうかとさえ疑い始めていたものだから、こうして良心的な意見を聞くと安堵を覚える。

「俺としても一人で帰らせるより一緒にいた方が安心だし、俺はあんたのヒーローでもあるんだから、守りたいって思うのは当然だろ?」
「あっ……う……」

先程の彼女への反撃のつもりだったが、想定以上に効果があったらしく彼女はすっかりたじろいでいる。色白な頬がほんのり赤みを帯びていく様は、見ていて胸を擽られた。

「まぁそんなワケだから、遠慮すんなよ」
「うぅ……わ……わかりました……では、お言葉に甘えさせていただきますね……」

恥ずかしさに追い詰められ、ほんのり泣きだしそうな顔で声を震わせて。いよいよ耳まで赤くなってきたところで、彼女は両手で自分の頬を軽く押さえだした。

「……おう、任せとけ」

彼女の頭が俯いていくのをいいことに、今度は緩みきった口元を隠すことなく応えた。衝動じみて高鳴る胸の鼓動を堪えようと力むあまり、震えそうになる体を悟らせまいとしながら。



「ん〜、今日はラッキーな一日だなぁ」

パトロールを終えて先のショッピングモールへ戻るまでの道のりを、軽快な足取りで踏みしめる。
パトロールも特に異常が発生することもなく平和的に終わったし、何より今日は思いがけない偶然のおかげでセレーナと過ごす時間がいつもより多くて調子付いてしまう。
帰り道、どんな話をしようか。いつもこちらの話を聞いてもらうばかりだから、彼女の話をもっと聞きたい気もする。そんなふうに心を躍らせていると、不意に黒い影が二つほど視界に入ってきた。

「お、ガストさんじゃないっスか!」
「ん? おぉ、お前ら」

不良時代に可愛がっていた弟分が二人、嬉しそうに目を輝かせている。【HELIOS】に入ってからも、こうしてあの頃と変わらず慕ってくれているのはありがたいことだ。

「随分とご機嫌っスね。なんか良い事でもあったんスか?」
「えっ? あぁ、まあ……ちょっとな」

いくら信頼の置ける仲間だったとはいえ、一人の女の子のことで浮かれていたと正直に恥を曝せば兄貴分としての威厳を失うと懸念し、歯切れ悪くはぐらかした。が、かえって興味を惹きつけてしまったらしく、彼らは食い下がろうとする。

「え〜、聞かせてくださいよ〜! あ、ひょっとして、彼女っスか?」
「いやいやいや、そういうのじゃねぇけど!」
「でもガストさん、最近【HELIOS】で仲良くなった女の子がいるって言ってたじゃねぇか」
「そうそう! 男……しかも不良にトラウマがある子だから、一緒にいるのを見かけても不用意に近づいてやるな〜って、連絡回してきたのはガストさんの方じゃないっスか!」
「それはまあ、そうなんだけどさ……」

それはもう無邪気に畳みかけてくる弟分たちに情けなくも気圧され、いたたまれなくなって首の後ろを軽く掻き毟る。
セレーナからの手紙を読んだ直後、どうか配慮をしてほしいという切実な願いを叶えるために彼らと連絡を取ったのは、紛れもない事実だ。できることなら弟分たちをセレーナに会わせることで、せめて自分の身の回りの人間たちに対する偏見を取っ払いたかったのだが、彼女の心の傷を抉るようなことはしたくない。頃合いを見て少しずつ実現するためにも、まずは不慮の事故を未然に防いでおくべきだと、似たような苦手意識を持つ同士だからこその視点から判断したのだった。
しかしそれは、あくまでも身近に接する相手への最低限の配慮だと思っていたのだが。

「だからって、別に彼女とかじゃねぇから。部署は違うけど同じ職場で働く仲間っつーか、友達っつーか」
「でも、ガストさんはその子のこと好きなんでしょ?」
「はっ!?」

突飛な誤解を投げつけられ、思わず愕然とした声を大きく発してしまった。

「だって、ガストさんがそんなふうに女の子のこと気にかけてるの珍しいじゃないっスか」
「ガストさんが優しいのは確かだけどさ、どっちかっつーとケンカ一筋みたいなイメージあったし。その子に惚れてるんじゃねぇかって、みんなで噂してたんスよ」

いつの間にそのような噂になっていたのか。己の態度を客観的に指摘されると妙に恥ずかしくて、慄いてしまう。

「い、いやいや、そんなんじゃなくて……なんかこう、放っておけないっつーか、守ってやりたくなるっつーか……とにかく、あの子には幸せに笑っていてほしいんだよ」

朗らかで優しい微笑を思い浮かべながら、真剣に訴えたつもりだった。男が苦手で、それでも向き合うことを諦めず心を許してくれるようになってきた彼女に対し、彼らの想像するような彼女への裏切りにも等しい下心を寄せているだなんて思われたくはなかったから。

「それ、相当入れ込んでんじゃねぇか」
「えっ」
「誤魔化したって無駄っスよ〜! いやぁ、そんな言葉さらっと言えちまうなんて、ガストさんはやっぱカッコイイなー!」
「いや、あのっ」

しかし彼らの表情は、こちらの意図が伝わらなかったというよりも、確信を得たと言わんばかりにはしゃいでいて、その勢いにたじろぐ。
本当に自分は、無意識のうちにそのような情を持っていたのか。確かに彼女と近づく度、激しい動悸に襲われることもあるし、彼女の反応を過剰に意識して舞い上がったり、彼女が勘違いをしてしまうことを喜んでしまったりすることもあるけれど、それは自分が女の子と接することに慣れていないからだと思っていた。彼女と少しでも一緒にいられたらと願うのも、たくさん喜ばせてやりたいと張り切ってしまうのも、本当はまさか──

「あのっ、ガストさんが惚れた女の子がどんな子なのか見てみたいんですけど! ちょっと遠くから眺めるだけでも駄目っスか?」
「えぇっ!? あぁ、いや、そうだな……あの子に気づかれなければ、まあ……」
「やったー! 言ってみるもんだぜ!」

混乱している間に話は思いもよらぬ方向に流されていったが、それを強く止める余裕などなく。

「俺……セレーナに惚れてる、のか……?」

ただただ己の中にあるはずの感情に対して呆然として、彼女に会いに行くための足すら止まってしまっていた。





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