ドクターのラボを後にして、ひとまず部屋に戻ろうと爪先を向かうべき方角へ向けた瞬間、ぎょっとしてたじろいでしまった。向こう側からジャクリーンと並んで歩いてくる彼女の姿が視界に入り、途端に焦燥が込み上げてきて頭の中が真っ白に塗り替えられていく。
彼女たちはまだこちらの存在に気づいていないらしく、和気藹々と会話を楽しんでいる様子。和やかに微笑む表情がとても優しくて、可憐で好ましくて、だけど本能に深く刻み込まれた苦手意識を振り払うことはできずに、胸の奥がきゅっと息苦しく引き締まる。
その感覚の正体をまだ理解できないまま、思わず逃げるように今しがた出てきたラボに引き返してしまった。

「おや、ガスト。何か忘れ物ですか?」

もうすっかり興味の失せた無情な視線が部屋の主から浴びせられ、女の子から逃げてきただなんて正直に言えるはずもなく、かといって特に用もなく、はは、と情けない苦笑いがこぼれた。
さて、これからどう言い訳しようか。







ブルーノースにある実家近くのショッピングモールは今日も多くの買い物客で賑わっている。もちろん、セレーナもそのうちの一人だ。気分転換に新しいティーカップでも買おうと思い立ち、貴重な休日にこうして街まで出てきた。
目的のものは早々に手に入ってしまい、かといってすぐにタワーに戻るのもなんだか勿体ない気がして、一人でふらふらとあてもなく散策していたのだが。

「あら……?」

人混みの向こうによく見知った制服を見つけて、首を傾げた。そしてすぐに、つい最近自分を助けてくれた彼だと気づいて、どきりと心臓が強く跳ねた。
パトロール中だろうか。一瞬、声をかけようかと悩んだが、まださして仲が良いわけでもなく、特別話題があるわけでもなく、どのみち緊張してろくに会話も続かずに気まずくなって終わる展開は目に見えているから。もどかしさを静かに呑み込んで、逃げるように彼から視線を外した。
いつか、タワーの外でもあの人と一緒に歩ける日が来るかしら。淡い夢を抱きながら、何事もなかったかのように一般市民の中に溶け込んだ。






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