Story
私たちの
居場所
ある日の昼頃、私は颯くんとレッスン室の扉の前に居た。
「無理…、吐きそう…やっぱり別日にしない…?」
『お前から言ったんだろ…、…俺も付いてるから行くぞ』
「頼もしい……」
今日は、颯くんのグループのメンバーである彼らに正式にお付き合いしたという、ご報告をしに来たのだ。
普通であれば、報告など要らないだろうが颯くんは芸能人…夢を売る仕事をしている以上、私のような"恋人"という存在は不必要な存在で私の存在はきっとグループを駄目にする。でも、颯くんが私を受け入れてくれた…ただそれが嬉しくてそれに応えたくて私も颯くんを受け入れた。
何度も何度も、頭の中で彼らに何と言えばいいの分からなくて、やっと思い付いた言葉とこうではないああではないと葛藤させているうちに颯くんがレッスン室の扉を開けた。
中には、7Colorsのメンバーが勢ぞろいしていてその中にはキュアマネージャーのななさんも居た。
「お、来たきた!あやめさんもこんにちは!」
「結人くん、こんにちは〜。相変わらず、元気だね」
「そうですか?まあ、颯に比べたら元気ですけど!」
「はは、確かに!颯くん、基本ローテンションだから」
結人くんとは、颯くんの同室者ということもあってお互い颯くんのお話をしたりする機会も多く1番の仲良しだ。彼と話をしていると緊張していた自分の心も落ち着いた気がした。
「そういえば、今日颯から俺らとキュアマネに話があるって言われて、あいつにしては珍しいですよね」
「えっ…!?あっ……うん、そうだね〜…」
突然の言葉に落ち着き始めていた胸が再び緊張を帯び始める。全員、レッスン室に居るのを確認した後、颯くんが徐ろに私の腕を引っ張った。不意なことに足がふらついて、颯くんの体に顔をぶつけ、その痛さに顔を顰めながら引っ張った本人に恨めしく目線を向ける。
「…俺、こいつと付き合った事になった」
突然の颯くんからのカミングアウトに賑やかだったレッスン室の空気が沈黙に包まれた。
そして、メンバーの皆は颯くんに視線を向けたあと私を見て、次の瞬間にわっと皆の声で場が盛り上がるのを感じた。
「颯、マジかよ?!お前も人の子なんだな!」
「まさか、ハヤテがあやめさんをな〜」
「少し驚いたけど、2人ともおめでとう」
真哉くんからの祝福の声をきっかけにおめでとうと言われることに困惑を隠せずにいた。付き合うということは、グループに問題を抱えることでそれを祝福できる彼等の反応に少なからず予想外だったのだ。
「え、まっ、待って?!なんで、皆そう簡単に受け入れてくれるの…?お付き合いだよ…?」
声に動揺が走り、思わず上擦った言葉に皆はきょとんとした後に面白いのかふっと笑いを吹き出した。
「もしかして、あやめさん不知火からなんでアニドル活動再開したのか聞いてない?」
「え…?それは、セブカラの皆が颯くんの信頼を勝ち取ったからじゃ…?」
「それもあるが、多少なりともあやめさんも入っているぞ」
「ッ、リーダー!蓮水!」
初めて聞いた事実に思わず、颯くんに視線を向ける。その視線に気づいた本人は慌てて、言葉を制した。
「不知火も、少しは素直になったらどうだ?」
巴瑠くんの言葉に、颯くんは目線を何度か逸らしたあとに前髪をくしゃりと掻き上げて覚悟を決めたのか真剣な眼差しで私を見た。その眼差しにドキリと胸を高まらせる。
「確かに、俺がアニドル活動再開したのはあいつらが俺になくしたものを取り戻してくれる可能性を信じてみたのもある。…だけど、お前俺がアニドル諦めてる時も俺なら出来る、俺の作る曲が好き、って言ってくれただろ。そうやって、俺のことを応援してくれてる奴がいるのも、背中押された…つーか…。」
颯くんの口から出た言葉にびっくりして、咄嗟のことに口からは言葉が出ず口を金魚の様に開閉させることしか出来なかった。
そして、その颯くんの言葉に続けるようにセブカラのみんなが微笑ましそうにどこか嬉しそうに言葉を紡いだ。
「…僕にとって、7Colorsが居場所なように颯先輩の居場所は7Colorsとあやめさんなんだと思う。」
「あやめさんが居なかったら、もっと酷い不良生だったかと知れんしね!」
「そうそう!ソウ先輩ね、あやちゃん先輩の話するとき優しい顔するんだよ!」
斗羽くん、碧叶くん、悠希くんの言葉が胸にしみて目頭が熱くなり、視界がぼやけるのを感じた。それを隠すように、彼らから視線を逸らして、今にも口から零れそうな嗚咽を殺すように口に手を当てて必死に堪えていると颯くんが私の頭をぽんっと撫でた。
颯くんにしては、優しい撫で方に泣いてもいいよ、と言われてような気がして周りを気にせずボロボロと涙を流した。
そんな私の姿に、彼らは笑いながら「泣くなよ〜」と優しい声をかけて、私を笑わせてくれた。
改めて、彼らに出会えてよかった、彼らが颯くんのメンバーでよかった、なんて感じた1日だった。