昔の話
嘘から出たまことという言葉があるだろう。これは、その嘘の話だ。
もう千、二千年ほど前の話になるか。
「おばあちゃん、大丈夫?」
絶えず咳を出す祖母は、父の腕を借りて上体を起こさせながらよく話していた。その夜は特に酷く、呼吸をする暇さえない病状は祖母の身体に恐ろしい負担をかけていた。
「天衣、清心を採ってきてくれないか?」
「天衣ちゃん、っ、危ないから行かな、」
「分かった!」
私は父に言われて反射的に家を飛び出した。
息を切らして、酷い雨の中を走ったことを覚えている。肺が痛くて、目に雨が入って、それでも何人目かの祖母が大切で仕方がなかった。
「何を探しているんだ?」
「ええと……清心を」
「この雨の中でか?」
「はい」
「……そのまま登れ。頂の西側に清心が三つあるはずだ」
「なる、ほどっ……!」
「あった!ありましたよ、三つ!なんで知って———」
清心を取り終えて私が声のした方へ振り向くと、誰もいなかった。
今思えば彼の声だったような気もするし、そうでなかったような気もする。もしそうであれば、運命ですね!とでも口説けるのだが否定されることが怖くて今もこの話は彼にしていない。
けれどもし私が手を滑らせて落ちたとしたら、あの声の主はきっと助けてくれたのだろうと、今も思っている。
まあそんな経緯で私は清心を無事採ることができたわけなのだが、喜ばれるだろうと家の戸を叩こうとしたときから、私の自殺願望は始まった。
「あんな気味の悪い子供を十七になるまで育てたんだ。母さんも俺も、もう良いだろう」
「でも、」
「俺だけじゃない。みんな気味悪がってる。仙人の子じゃないかとすら言われてるんだ」
ザアザアと降る雨の音の中、はっきりと聞こえる家族の声。
そんなわけが無いだろう。私は凡人だ。母の不貞を疑う父なんて知りたくなかった。何回目であっても、親は家族で、愛する対象なのだから。
愛してしまうから、私は彼らが死ぬ前に死のうと思えない。独りが淋しいことは今まで散々学んできた。だけど、こんなことってないだろう。
清心を置いて、行く宛もなく去ろうとしたときに祖母の声が聞こえた。
「お前、馬鹿なんじゃないかい?あの子は私たちの家族なんだよ」
「———」
私は雨音を切るようにして戸を開けて、子供にしては爛漫さを欠いた笑顔をした。
まあ、簡単に言おう。
「お父さん、おばあちゃん、ただいま」
私は死ねなかったわけだ。
あの場所が戦火に呑まれるまで家族と過ごした。祖母はその夜から程なくして息を引き取り、家を出ることを考えたが、私の前世分の知識は父をずっと上回っていて、私は家業のために残った。
父が死んだのは、上手く回らなかった会話の中で、少しだけ笑顔が増えてきた頃だった。
私を疎んだ父は、大雨で崩れた土砂に埋まって死んだ。あっさりとした終わりだった。
その話を人から聞いたとき、ふと、死にたいなあ、と思った。転生する私に死なんてまるで意味を持つものでは無い。けれど、私はあのとき真の意味で「死にたい」と思った。
私が守らなくてはいけない、私が助けていたい。そう思っているくせに、家族の訃報を他人から聞く。ろくでもない自分の本性に気がついたとき、摩耗しきった私にはしたいことなど何一つなかったのである。
何一つ持たないまま、あの日のように夜を走った。今度は、自分が足を滑らせて「うっかり」死ぬように。皮肉なことに、死んだ経験が増える度死ぬことは怖くなるのだ。
こんな終わりで良いから、もう産まれたくない。死のうと望む人間を抱きとめるひとはもう今生では失った。また失うより、これで終わりにしてほしい。きっとそんなこと、ないのだろうが。
落下する体をそのままに、私はゆっくり目を閉じた。
「……目が覚めたか。息はできるか?」
「……は、?あ、」
「自殺を態々止めるわけじゃないが、ここは仙人たちの住処だ。誰だって自分の近所で自殺なんてされたら寝覚めが悪い」
私は石珀の瞳をもつひとの家で目が覚めた。喉が乾いて上手く声が出せない私に、水を差し出しながらその人は注意した。私のしたことに対して比較的優しい声で話すこのひとこそ、当時まだ七神ではなかったモラクスさんだった。
酷い顔色をしていたのだろう、モラクスさんは温かいお粥を私に食べさせた。ご飯を食べてしまうと人間の思考は落ち着いてきてしまうもので、死のうとするほどの気力は消え、これからどうやって生きていくかへと考えが及ぶようになる。
そうして出した答えもまあ、冷静ではなかったのだけれども。
「帰る場所もありません。ここに少しだけいさせてはいただけませんか。生きる手立てが見つかるまでで良いので。たくさん働きますから」
自殺を止めてきたこの人に一生感謝して生きるのはごめんである。時折思い出しては「私を助けたひとだ」などと思いたくない。思いたくないが、今私に先程のような決意がないのも事実。
ならば働いて借りを返すべきだ。
このときの私は本当にそう思った。自分では落ち着いていたつもりだが、精神はまだガタガタだったので。
「いや———」
「お願いします。命の恩人に恩を返したいんです」
「恩を感じる必要は無い。俺が勝手に助けただけだ」
まあ、それはそうだ。私もこのとき恩なんて感じてはいない。ちょっと申し訳ない気持ちと、止めやがったなバカヤローの間くらいにいた。
そんなバカヤローに「救ってもらった」などと言わなければ行けない立場でいたくなかっただけである。働けば少しは関係性として対等になれるだろうという考えも少し。不敬も極まればここまで到達する。
全てはここから始まったという言葉があるだろう。私の迷走した思考は今後の人生でも類を見ないめちゃくちゃな言葉を吐き出した。
「……本音を言うと、貴方に恋をしてしまったんです。助けられて、舞い上がってしまったみたいで」
そう、全てはここから始まったのだ。現在まで続く奇妙な関係は。
もちろんこのときの告白は嘘である。
つい先程まで自殺を考えていたような人間が恋に落ちるはずはない。そんなことは人間であれば分かるだろうが、相手は神だ。すぐにその感情が理解される訳でもないだろう。……白状すれば、私もそう恋に精通している人間では無かったのだけれども。
鍾離さん———当時はモラクスだが———は予想の通り理解できないといった顔で私の目を見た。
「貴方のせいで恋に落ちたんですから、少しくらい融通してください」
「……それは契約か?」
「契約をできるような物言いではないと思いますけれど」
「ああ。だから困っている」
「『契約』ではなく『お願い』です。これでも植物学への造形には自信がありますから、繁栄の手伝いはできます」
モラクスさんは目の前の厄介な女の嘘だらけの言動に気付いているのかいないのか、「まず粥を食べ切れ」とため息をついた。
「帝君、覚えてます?あれ」
「……ああ。懐かしいな」
「何で私が付きまとうの、許してくれたんですか?」
「……自分でも分からないが、気が付いたらお前が手を取っていたものだからな」
「流されたんですか?あの岩神が」
「……」
「っふふ」
実はね、それ、運命なんですよ。と言えば龍の小さな唸りで返ってきたので、私は笑った。
「つまらない話だったかな、蛍ちゃん?」
「いや……何か……」
「端折りすきだぞ、天衣!特にモラクスのところに転がり込んでからの話が!」
「うーん、でもあのひとを好きじゃなかった頃の私をあんまり思い出せないの」
「それってまさか……」
鍾離が!?とパイモンちゃんが大声を出して、周りの人の注目を集める。パイモン、声、と蛍ちゃんがそれを諌めるのを見て私は微笑んだ。
「冗談冗談。鍾離さんは私にそんなに必死にならないもの」
「そんなことないと思うけど……」
「そもそも璃月奇伝で語られるほど帝君優しくないの。ちょっと人と話すだけで戻るのかとか帰郷の催促されるし」
蛍ちゃんの言葉に首を振る。
「……講談師の話で聞いてたのと全然違うぞ……」
「それは私があのひとに会ってから2、3回目くらいの生の話だからなあ。生まれ変わっても逢いに行くくらいだったから、帝君も私に呆れてちょっと優しかったんだよ。あの話は帝君が優しくしたくてしたんじゃなくて、仕方なくしたの」
「なんだか、どんどんロマンチックじゃなくなっていくんだぞ……」
「それでいいんだよ、パイモンちゃん」
そう、それでいいのだ。あの人との思い出なんて忘れるはずがない。
鍾離さんが蛍ちゃんをかつてのバックアップをする存在として扱っていることは知っている。けれど、私の取るに足らない恋はいつか来る終わりに彼と共に消えるものでありたい。それに、ずっと年下の子にろくでなしの恋について話すのもはばかられた。
「綺麗な花と優しい龍の話だけ知ってればいいの。泥んこの雑草に付き合わされる神の話なんて、カッコつかないんだから」
本当に、本当に。さっさと摘み取ってしまえばいいのに、真面目にどこにでもある雑草にも光をあててしまうものだから、私はいまここにいるのだ。
ため息をついてから微笑むと、ふたりはきょとんと首を傾げていた。
——————
「もしかして私たち、惚気だけ聞かされたのかな」
「惚気なのか、あれが!?」
「そうだよ、ずっと楽しそうだったもん」
「ああ……そういえば、天衣はああ言ってたけど、岩王帝君は契約以外で人に流されて動くような奴じゃないだろ?」
「うん……ってことは……」
「優しくしたくてしたんだよ、きっと!」
そんなことも分からないなんて天衣もまだまだだな!とパイモンが言った。
旅人は、ふと仙体の鍾離が天衣に優しくしようとする様を想像する。でこぼこで、それほど悲劇ではなくて、格好のつかないふたりは、旅人の想像の中ではどこか絵になっているような気がした。
もう千、二千年ほど前の話になるか。
「おばあちゃん、大丈夫?」
絶えず咳を出す祖母は、父の腕を借りて上体を起こさせながらよく話していた。その夜は特に酷く、呼吸をする暇さえない病状は祖母の身体に恐ろしい負担をかけていた。
「天衣、清心を採ってきてくれないか?」
「天衣ちゃん、っ、危ないから行かな、」
「分かった!」
私は父に言われて反射的に家を飛び出した。
息を切らして、酷い雨の中を走ったことを覚えている。肺が痛くて、目に雨が入って、それでも何人目かの祖母が大切で仕方がなかった。
「何を探しているんだ?」
「ええと……清心を」
「この雨の中でか?」
「はい」
「……そのまま登れ。頂の西側に清心が三つあるはずだ」
「なる、ほどっ……!」
「あった!ありましたよ、三つ!なんで知って———」
清心を取り終えて私が声のした方へ振り向くと、誰もいなかった。
今思えば彼の声だったような気もするし、そうでなかったような気もする。もしそうであれば、運命ですね!とでも口説けるのだが否定されることが怖くて今もこの話は彼にしていない。
けれどもし私が手を滑らせて落ちたとしたら、あの声の主はきっと助けてくれたのだろうと、今も思っている。
まあそんな経緯で私は清心を無事採ることができたわけなのだが、喜ばれるだろうと家の戸を叩こうとしたときから、私の自殺願望は始まった。
「あんな気味の悪い子供を十七になるまで育てたんだ。母さんも俺も、もう良いだろう」
「でも、」
「俺だけじゃない。みんな気味悪がってる。仙人の子じゃないかとすら言われてるんだ」
ザアザアと降る雨の音の中、はっきりと聞こえる家族の声。
そんなわけが無いだろう。私は凡人だ。母の不貞を疑う父なんて知りたくなかった。何回目であっても、親は家族で、愛する対象なのだから。
愛してしまうから、私は彼らが死ぬ前に死のうと思えない。独りが淋しいことは今まで散々学んできた。だけど、こんなことってないだろう。
清心を置いて、行く宛もなく去ろうとしたときに祖母の声が聞こえた。
「お前、馬鹿なんじゃないかい?あの子は私たちの家族なんだよ」
「———」
私は雨音を切るようにして戸を開けて、子供にしては爛漫さを欠いた笑顔をした。
まあ、簡単に言おう。
「お父さん、おばあちゃん、ただいま」
私は死ねなかったわけだ。
あの場所が戦火に呑まれるまで家族と過ごした。祖母はその夜から程なくして息を引き取り、家を出ることを考えたが、私の前世分の知識は父をずっと上回っていて、私は家業のために残った。
父が死んだのは、上手く回らなかった会話の中で、少しだけ笑顔が増えてきた頃だった。
私を疎んだ父は、大雨で崩れた土砂に埋まって死んだ。あっさりとした終わりだった。
その話を人から聞いたとき、ふと、死にたいなあ、と思った。転生する私に死なんてまるで意味を持つものでは無い。けれど、私はあのとき真の意味で「死にたい」と思った。
私が守らなくてはいけない、私が助けていたい。そう思っているくせに、家族の訃報を他人から聞く。ろくでもない自分の本性に気がついたとき、摩耗しきった私にはしたいことなど何一つなかったのである。
何一つ持たないまま、あの日のように夜を走った。今度は、自分が足を滑らせて「うっかり」死ぬように。皮肉なことに、死んだ経験が増える度死ぬことは怖くなるのだ。
こんな終わりで良いから、もう産まれたくない。死のうと望む人間を抱きとめるひとはもう今生では失った。また失うより、これで終わりにしてほしい。きっとそんなこと、ないのだろうが。
落下する体をそのままに、私はゆっくり目を閉じた。
「……目が覚めたか。息はできるか?」
「……は、?あ、」
「自殺を態々止めるわけじゃないが、ここは仙人たちの住処だ。誰だって自分の近所で自殺なんてされたら寝覚めが悪い」
私は石珀の瞳をもつひとの家で目が覚めた。喉が乾いて上手く声が出せない私に、水を差し出しながらその人は注意した。私のしたことに対して比較的優しい声で話すこのひとこそ、当時まだ七神ではなかったモラクスさんだった。
酷い顔色をしていたのだろう、モラクスさんは温かいお粥を私に食べさせた。ご飯を食べてしまうと人間の思考は落ち着いてきてしまうもので、死のうとするほどの気力は消え、これからどうやって生きていくかへと考えが及ぶようになる。
そうして出した答えもまあ、冷静ではなかったのだけれども。
「帰る場所もありません。ここに少しだけいさせてはいただけませんか。生きる手立てが見つかるまでで良いので。たくさん働きますから」
自殺を止めてきたこの人に一生感謝して生きるのはごめんである。時折思い出しては「私を助けたひとだ」などと思いたくない。思いたくないが、今私に先程のような決意がないのも事実。
ならば働いて借りを返すべきだ。
このときの私は本当にそう思った。自分では落ち着いていたつもりだが、精神はまだガタガタだったので。
「いや———」
「お願いします。命の恩人に恩を返したいんです」
「恩を感じる必要は無い。俺が勝手に助けただけだ」
まあ、それはそうだ。私もこのとき恩なんて感じてはいない。ちょっと申し訳ない気持ちと、止めやがったなバカヤローの間くらいにいた。
そんなバカヤローに「救ってもらった」などと言わなければ行けない立場でいたくなかっただけである。働けば少しは関係性として対等になれるだろうという考えも少し。不敬も極まればここまで到達する。
全てはここから始まったという言葉があるだろう。私の迷走した思考は今後の人生でも類を見ないめちゃくちゃな言葉を吐き出した。
「……本音を言うと、貴方に恋をしてしまったんです。助けられて、舞い上がってしまったみたいで」
そう、全てはここから始まったのだ。現在まで続く奇妙な関係は。
もちろんこのときの告白は嘘である。
つい先程まで自殺を考えていたような人間が恋に落ちるはずはない。そんなことは人間であれば分かるだろうが、相手は神だ。すぐにその感情が理解される訳でもないだろう。……白状すれば、私もそう恋に精通している人間では無かったのだけれども。
鍾離さん———当時はモラクスだが———は予想の通り理解できないといった顔で私の目を見た。
「貴方のせいで恋に落ちたんですから、少しくらい融通してください」
「……それは契約か?」
「契約をできるような物言いではないと思いますけれど」
「ああ。だから困っている」
「『契約』ではなく『お願い』です。これでも植物学への造形には自信がありますから、繁栄の手伝いはできます」
モラクスさんは目の前の厄介な女の嘘だらけの言動に気付いているのかいないのか、「まず粥を食べ切れ」とため息をついた。
「帝君、覚えてます?あれ」
「……ああ。懐かしいな」
「何で私が付きまとうの、許してくれたんですか?」
「……自分でも分からないが、気が付いたらお前が手を取っていたものだからな」
「流されたんですか?あの岩神が」
「……」
「っふふ」
実はね、それ、運命なんですよ。と言えば龍の小さな唸りで返ってきたので、私は笑った。
「つまらない話だったかな、蛍ちゃん?」
「いや……何か……」
「端折りすきだぞ、天衣!特にモラクスのところに転がり込んでからの話が!」
「うーん、でもあのひとを好きじゃなかった頃の私をあんまり思い出せないの」
「それってまさか……」
鍾離が!?とパイモンちゃんが大声を出して、周りの人の注目を集める。パイモン、声、と蛍ちゃんがそれを諌めるのを見て私は微笑んだ。
「冗談冗談。鍾離さんは私にそんなに必死にならないもの」
「そんなことないと思うけど……」
「そもそも璃月奇伝で語られるほど帝君優しくないの。ちょっと人と話すだけで戻るのかとか帰郷の催促されるし」
蛍ちゃんの言葉に首を振る。
「……講談師の話で聞いてたのと全然違うぞ……」
「それは私があのひとに会ってから2、3回目くらいの生の話だからなあ。生まれ変わっても逢いに行くくらいだったから、帝君も私に呆れてちょっと優しかったんだよ。あの話は帝君が優しくしたくてしたんじゃなくて、仕方なくしたの」
「なんだか、どんどんロマンチックじゃなくなっていくんだぞ……」
「それでいいんだよ、パイモンちゃん」
そう、それでいいのだ。あの人との思い出なんて忘れるはずがない。
鍾離さんが蛍ちゃんをかつてのバックアップをする存在として扱っていることは知っている。けれど、私の取るに足らない恋はいつか来る終わりに彼と共に消えるものでありたい。それに、ずっと年下の子にろくでなしの恋について話すのもはばかられた。
「綺麗な花と優しい龍の話だけ知ってればいいの。泥んこの雑草に付き合わされる神の話なんて、カッコつかないんだから」
本当に、本当に。さっさと摘み取ってしまえばいいのに、真面目にどこにでもある雑草にも光をあててしまうものだから、私はいまここにいるのだ。
ため息をついてから微笑むと、ふたりはきょとんと首を傾げていた。
——————
「もしかして私たち、惚気だけ聞かされたのかな」
「惚気なのか、あれが!?」
「そうだよ、ずっと楽しそうだったもん」
「ああ……そういえば、天衣はああ言ってたけど、岩王帝君は契約以外で人に流されて動くような奴じゃないだろ?」
「うん……ってことは……」
「優しくしたくてしたんだよ、きっと!」
そんなことも分からないなんて天衣もまだまだだな!とパイモンが言った。
旅人は、ふと仙体の鍾離が天衣に優しくしようとする様を想像する。でこぼこで、それほど悲劇ではなくて、格好のつかないふたりは、旅人の想像の中ではどこか絵になっているような気がした。