愛情劣情曖昧に
※タイトルはフォロワーにもらいました「いつ手出してくれるの?」
別に、堂々として言ったわけでもない。ただ日常会話の延長線上で、呼吸でもするように放たれた言葉だった。
「……はあ」
「え、何でため息?」
「もう少し自分を大切にしてください」
「たっつーだから良いのに」
「皐さんは分かっていません」
「分かってた方が良いこと、これ以上ある?」
皐さんは相変わらず綺麗に笑った。俺の罪悪も知らないというのに、知っているとでも言うような顔で。
否、きっと彼女にとって俺の葛藤は罪悪になど値していない。
友達だと言って手を繋ぎ、何の意図も含まれなかった愛しているを交わしたあの日を裏切った俺を彼女はいとも簡単に受け容れる。
「私は巽くんが好きで、巽くんは私が好きなんでしょ」
「愛していますな」
「何でそこは躊躇いないのか分かんないんだけど」
皐さんは俺の額に自分の額をコツンとつけてからピントが合わないと言って離し、俺の目を見た。
彼女は俺の目が好きらしい。
俺のそれよりも、木漏れ日を束ねたような彼女の瞳の方がずっと綺麗だと思う。笑うと柔らかくゆるんで、優しくまぶしい光が溢れる。そんなことはないはずなのに、俺にはそう見えてしまう。
「……綺麗ですな」
「うん、きれい」
「目、閉じなくても?」
「ん……どうしよっかな」
「俺は別にこのままでも構いませんけど」
「からかってる?」
「少し」
結局目はお互いに閉じた。主に皐さんによる意志で。
「……ん、」
「は……」
「……あ〜………」
唇が離れて、彼女は俺の肩に頭をもたれた。その間も抱きしめられたままで、身動きが取れない。取る気にもならなかった。
体温がそう高くないふたりでも、密着すればそれなりの温もりが生まれる。それを知ったのは彼女と出会ってからのことだった。
「私も愛してるよ。そういう意味で。私もちゃんと裏切ってる」
柔らかな髪が頬に当たる。
俺の肩口から皐さんは顔を上げて、眉を下げて笑った。
「……罪悪感、消えた?」
「、」
心臓が揺れる感覚と言えば良いのだろうか。言葉に無理やり形容するのなら、そういう表現になる。
心臓の中の一番熱い血が溢れて、沁み広がっていく感覚。
衝動的に押し倒しかけた彼女の体を抱きしめて、今度は俺が皐さんの肩口に頭を任せる形になる。
「たっつー?」
「……そう可愛いことをしなさいでください、後生ですから、」
「琴線分からないよ」
で、手出してくれるの?そう悪戯っ子のように彼女ははぐらかして俺に訊いた。抱きしめる腕を緩めて、肩を小さく押せば皐さんは抵抗することもなく倒れる。
「……どこまでなら、触れていいですか」
「……どこでも?」
「大事にしたいんですけど、ほんとうに」
「じゃあ大事にしてよ」
「話が通じていませんな?」
「ちょっと嬉しいくせに」
「……ええ、それはもちろん」
「あはは……」
何かを続けようとする彼女の口を塞いで、小さく声が漏れるのを聞いた。その音がやけに愛しく思えることだけが鮮明だった。