交点だけのわたしたち

「眠れませんか」
「……気付いた?」
「最近」

皐さんは少しバツが悪そうに笑う。目にかかりそうだった横髪を耳にかけてやると、彼女は俺の手に擦り寄った。

「巽くんといるのが幸せで眠れない」
「俺と?」
「うん」
「幸福は苦手ですか」
「ううん」

親指に皐さんの涙が乗る。山吹色の瞳から溢れる雫が綺麗だと思った。それでなくとも、きっと彼女の輪郭から髪の先に至るまで俺は綺麗だと思った。

「巽くんは私のことが好きでしょ」
「はい。愛しています」
「……」
「そんなにつつかれても」

皐さんが俺の頬に触れて、人差し指でつつく。その指が頬から顎へ、首筋を通り、腹の辺りで手は止まった。指先が触れた箇所に熱っぽさはなく、ただ淋しそうだと思った。
皐さんが寝巻き越しに俺の腹に触れる。
思ったよりかたいよね、と言われたのはいつだったか。

「こんなに温かいのに、下には骨があるんだなあって」
「この下は内臓ですよ」
「ああ、だからあったかいのか」
「……皐さんもそうです」
「人間だもんね」

燃えたら、なくなっちゃう場所だ。皐さんは俯いてそう言った。
彼女と生活を始めてもう数年の月日が過ぎたが、こんな不安定な姿は初めて見るものだった。否、ただ気が付けなかっただけか。
皐さんの両親は彼女を置いて早逝し、今の彼女を造った祖母も他界した。実家の性質上俺も葬儀には何度も立ち会ったことがあるが、その当事者になり続けた彼女に同情できるほどの経験は持ち合わせていなかった。

「皐さん」
「なーに」
「怖いですか」
「うん」
「俺も怖いです」
「私が骨になっちゃうのが?」
「いえ」
「む」

俺にもたれている彼女を腕で抱きしめる。折れてしまいそうだと思った。折れてしまうような人間ではないと知っているのに。

「ふふ、ハグするの好き?」
「皐さんも好きでしょう、ハグ」
「あったかいからね」

なくなっちゃうものばっかり好きなんだ、と皐さんは笑った。行き場のない笑顔が、彼女は一等上手かった。
いつか。俺が骨になったとき、彼女が骨になったとき、俺たちはこうして抱き合うことが出来なくなる。

「…………」
「……そういうときは、俺だからと言って欲しいです」
「かわいい」

抱きしめることに限った話ではない。俺と彼女では信仰も世界も違って、死んだ後に出会うはずもない。
そういうふうに、俺たちの交わりが、呼吸が、終わりに飲み込まれてしまうのだと知る日が怖い。
皐さんは俺の思考を知ってか知らずか、俺の頬を撫でた。未だ瞳は潤んでいたが、淋しそうな色は消えていた。

「……ごめんね、困らせて」
「……俺はきみのために困るのが好きなので」
「ふふ、うん」

コテン、と彼女が俺に頭を預けて、抱きしめられるままにもたれた。くっついた場所全てが温かく沁みた。いつもの体温が、今日の夜は痛かった。