前髪にくるりとクセをつけ、教師にギリギリ怒られないくらいの化粧をする。口紅は合わないから、色付きリップを。まつ毛は上を向かせ、髪型は昨日からちょっとだけ変えて編み込みを。

「よし、完璧」

鏡を見ていると、母から遅刻すんで!と叱られる。ヤバ、ダッシュできる髪型じゃない。
テーブルに置かれた朝食を手早く食べて玄関へ走る。

「あ〜〜〜!!!」
「食パン咥えて走んなや!恋落ちるで!」
「オカンやかましいわ!」

なんやねん恋落ちるって。何年前の少女漫画の話?

家を飛び出してダッシュで学校へ向かう。
絶対今度自転車通学許可取る。決意した。
ぽよんぽよんと通学鞄についたぬいぐるみのストラップが揺れる。
スマホをチラリと見ると、予鈴5分前。
過去最高記録やないか、コレ。焦ることないやんなあ、と前を向くと同じ制服を着た背中。

「アッ」

大丈夫、食パンはもう食べ切っている。少なくとも恋には落ちない。塗られてたジャム美味しかったな。
冷静になって脳が現実逃避を始めてから刹那、ドン。
激突である。

「ごめん!!!!」

固まっている相手に顔も見ずに謝る。謝罪というものは早い者勝ちだ。
いや百パー悪いの私やけど。

「…ええよ、びっくりしただけやから。顔上げ。遅刻すんで」

良かった許してもらえた、と不純過ぎる安心の仕方をして顔を上げた。ケガはしていないみたいだった。
知っている顔だ。クラスメイトの北信介。まだ五月だから全然キャラ知らんけど、ちょっと怖いと思っていた割に寛容じゃないか。
北はくるりと前を向き直して、教室への階段を登り出す。私も急いで教室へ向かった。
さっきぶつかったのに走んなや、と声が飛んできた。ゴモットモ。
でもやっぱちょっと怖いわ北くん。
走る速度を落として、北くんからやや離れ平行を歩く。

「あと前髪変なことなっとるで」
「っは!?」

嘘だ、朝ちゃんとセットしたはず……

「いや変わってへんやん…北くんの美的センスやないの」

そう言うと、北くんはキョトンとした顔をした。

「北くんの好みの女子と違ったんやな」
「初めて話したクラスメイトにいう言葉ちゃうやろ」
「初めて話したクラスメイトの前髪指摘するモンやないで」
「元を正せばちゃんと前見ず走ってたんが悪いやろ」
「北くん、正論言うなあ」

北信介と出会ったのは二年生の五月、この日だった。正直ちょっと圧あって怖かったからさっさと席座りたいなあと思ったが、次の日の席替えで彼はめでたく私の前の席になった。



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