「………」

現在八月十七日。午後五時くらい。宿題進行、四割くらい。自分にしては頑張っている。多分今年は残り三日間くらいでの追い込みをそんなにしなくていいな、北パワーだ、とそんなことを思っていた。
ちなみに問題はそこではない。

北に連絡をしていないのである。
連絡しない理由を探すうちに気がついたが、私にとって北という存在は、遠くてかっこよくて怖くて優しい、憧れの人のような存在になっているようだった。
つまるところ自分でも驚きなのだが、私はどうやら尊敬していたり、自分より遥か上にいると思っている人に対して驚くほどコミュニケーションが取れないらしい。

『北は今週空いてる日ある?』と送るだけなのに、それができない。連絡先を交換した日はウキウキしていたくせにいざ向き合ってみるとこうだ。
空いてないと言われてみろ。だったらこの日とかは、なんてきいて「そんなに遊びたいんか」と返信されたらどうする。息止まるぞ、私。

「あー…」

ベッドにつっ伏す。いっそ友人みたいな首っ丈の恋だったらこんなに気を使うこともないのに。中途半端に憧れだから困る。

北とのトーク画面を見つめる。スタンプを送っただけで、まだ明確なコミュニケーションがなされていないそれは何だか頼りなかった。

「度胸や…度胸……」

唾を飲んで半分ヤケクソになって送信ボタンを叩く。
なんだこれ、めちゃくちゃ体力使うな。他の人と連絡取るときなんて文章確認をしたこともなかったのに。

既読がつく。早い。困る。嬉しい。いややっぱ困る。なんだこれ、なんだこれ。

「えっ…うわあ!!!」

ブーッと携帯が震える。名前には北。
動揺して携帯を手から離してしまった。なんで電話かけるん。いや北が文面より会話で伝える方が好きなのは知っとったけど。
ゆっくり、慎重に応答ボタンをなぞって、スマホを耳に当てた。

「も、もしもし」
「おお、四季出た。すまん、文字打つよりこっちが早いからな」
「いやそれはええけど、ウン…ハイ……」
「四季?」
「続けてどうぞ!!」

ええけど。ええけど。耳元で北の声が聞こえるのはダメや。

「今週、日曜日空いとるで。確か神社で夏祭りやるはずやし、行かんか」
「…一緒に?」
「一緒やなかったら言わんなあ」

北が面白がるような声色で言う。視覚情報があったら私飛んでたな、絶対に。

「行きたくない?」
「行く!!!!熱出ても行くわ」
「それは寝ろ」

冷静な言葉が刺さる。いつもの北だ。

「宿題は終わってるんか」
「……四割くらいは!」
「終わらせんと祭り行かせへんで」
「やっぱママやんか…ママ宿題手伝って…分からん……」
「人に頼んなや。教えたるから分かるまで自分で解き」
「北…!」

夏祭り前に北と会う予定が一つ増えた。宿題終わらせるだけだけど。
どんな服着てこうかな。勉強するだけだから飾りすぎるのもダメだな。

「楽しみやんなあ」
「勉強するだけやん」
「北と会えるだけでなんかパワーもらえそうやん」
「四季やっぱよう分からんわ」
「女子高生やから」
「それ理由にならんで」



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