「だーれだ?」
「名無し」
「正解。奈良坂背高くて手が疲れるんだけど」
「自分から仕掛けたのに文句を言うのか」

ボーダー本部。仲が良いのか悪いのか分からない男女が一組。
ボーダー内の呼び名は名無し――もとい井伊遥は奈良坂透の顔から手を離して、笑った。

「私は今憤ってるんだよ奈良坂くん」
「そうか」
「理由聞いて」
「理由は?」
「そういうところ大好き 最近某チョコ菓子を食べるとね、『それ奈良坂くんも食べてたよね』ってよく言われるんだよ。やっぱ二人って趣味合うのかなみたいなこともくっついて!!!」
「うるさいぞ」
「奈良坂が静かだからプラマイゼロに」
「ならない」
「正論ありがとうな」

なんてノリの悪い男なんだ、と名無しが唇をとがらせる。
この2人のよく分からない関係は割と有名だ。なんと言っても、特定個人との繋がりを深めようとしない名無しが自分からよく絡みに行っていることで目立つ。

「奈良坂は顔が良いからそんなにノリが悪くても許されるんだ…許せない…私だって美少女なのに…」
「ならトリオン体モデルは変えない方が良い」
「それはそうなんだよなあ……。……奈良坂はさあ、私の顔、気になる?」
「特には」
「何でだよ気になれよ」
「理不尽だな」
「クソ…私が超絶美少女でトリオン体コロコロ変えてなかったら確実に奈良坂は落ちてたしこんな正論ぶつけないはずなのに」
「何を言っても中身は名無しだろう」
「何が言いたいんですかねえ」

名無しが奈良坂の背中を小突く。そういうところを奈良坂は言っているのだが、名無しは辞めるつもりがない。

「人は顔が100%だと思ってるから、私」
「だからよくトリオン体を変えるのか?」
「うんにゃ、個人として認識されたくないだけ。それに今の顔も可愛いでしょ?」
「……」
「沈黙すんなよ、照れるだろ」
「名無しの事情はともかく、共闘するときに判別がつかないからやめるべきだ」
「え〜…じゃあそろそろやめるよ」
「ああ」

あ!と名無しが声を出す。

「そういえば奈良坂、私のせいで女友達多いみたいな誤解受けてるんだよね。うける」
「今すぐやめろ」

奈良坂は最近辻に少し避けられていたのはそれのせいかと合点がいった。近頃辻は奈良坂個人とは話すが、何かを警戒しているようなところがあった。

「やめるって言ったじゃん。ごめんね」

どこから取り出したのか、名無しは無造作に飴を奈良坂に渡した。「これでチャラで」と名無しは言う。

「でもそっか〜、トリオン体固定かあ」
「それほど嫌なことなのか」
「いや、嫌っていうかほら……察せよ!」
「今までの会話で察する要素は無かった」
「そうだね」

名無しは奈良坂から気まずそうに目を逸らしてへにゃりと笑った。

「どんだけ変えてもさあ、奈良坂気付いてくれるからなんとなく嬉しかったんだよね。さっきみたいなのでもすぐ分かってくれるし」
「…」
「…」
「……」
「沈黙すんなよ!本当に照れるし気まずいじゃん!思ったこと言えば!?」
「名無しが俺を好きなのは知っていたがそこまでだとは」
「ストーップ!」

名無しが奈良坂の口を手で塞ぐ。
名無しは耳まで真っ赤で、それを見た奈良坂は何故か目を逸らした。

「他意ないから!ちょーっと嬉しかっただけだから!分かったか!?」
「うるさいぞ」
「うるせー!」



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