どうやら私はギャルというものにあたるらしい。確かにちょっと髪を染めてはいるし、ピアス開いてるし、スカート丈は短いけどそんなつもりはなかった。
自分が好きなように、かわいいと思うように行動していたらこうなってしまっただけなのだ。
化粧は徐々にしていったから目をつけられてはいない……と思う。そもそもそんなに厚くないしな。
普段の私を知っている人は語るが、ただの女子高生なのだ。
何故こんな話をしているのか話そう。

ここは後者裏。なんとも古典的な告白スポット。
そして私が告白をフッた途端に豹変した男が目の前にいる。状況説明終わり。
言い分としては、私が自分を誘った、とのこと。そんな記憶はない。

「そんな格好して勘違いさせたんやろなあ…」
「は?…ッ!いった…」

右手首を捕まれる。相手の方が身長が高くて、私に影が被さる。
昔からたまにこういうことがある。私は人よりちょっとだけ恵まれた身体をしているから、そんな身体で緩い格好をしているから、襲われても仕方ないらしい。
それを私に言ったのは近所のお高くとまったおばさんで、母はその人の顔をグーで殴って町を出た。

「いつも俺のことチラチラ見てたもんなあ。好きやないなんてウソつかんくてええよ」

うるさい。そんなことしてないし、したとしてもバイトで全然会計に来ないとかそんなんやろ。もしそうだとするなら、感性ガバ野郎や。そもそもおまえ誰や。
そう言いたいのに、言葉が出てこない。
シャツの胸元のボタンが一個外された。半年くらい前までなら開けていたボタン。体冷えるで、なんて言われたこともない指摘をされて、爆笑したことから留めるようになった。
ふと北の顔が頭をよぎる。北だったらこういうときどういう行動するのかな。男子だからあんまり関係ないのかもしれないけど、もしこうなったら。

「クソ。触んなや、汚れるやろ」
「は?」
「私は別に好かれたくて優しくしたわけちゃうし、あんたに襲われるためにこういう格好してるわけちゃうわ」

きっと、受け入れることだけはしない。
友人が言ってたな。どこ蹴ったらいいんやっけ。金的か。死ぬほど痛いらしいけど死なないなら蹴っておこう。
足を動かせるように、少しだけ位置をズラす。

「先生呼ぶで」
「この…!」

相手が腕を振り上げる。どういう教育受けて生きてきたんやコイツ。顔殴ったら一生立てへんようにしてやるからな。あ、ヤバい動けない。
来るであろう衝撃に備えてギュッと目を瞑った。

「何しとるん?」

落ち着いた声。かみさまみたいな、そういう声。

「北、」
「!」
「おい逃げんなクソ男!」

北を見た途端、男は走って逃げた。私は男の背中に罵倒をぶつける。第三者が怖いならするな。怖くなくてもするな。将来的に殺したい。
私が殺意を燻らせていると、北がしゃがみこんで私に手を伸ばした。

「四季、何もされてへん?」
「…うん、大丈夫。北はどうしてここ来たん?」
「四季の友だちがタライ持って校舎の階段駆け登ってたん見て、嫌な予感した」
「へえ…アイツが……………タライ?」

え、何タライって。そう思って上を見上げると友人が手を振っていた。タライを持って。
訳分からんな状況。

「四季ー!!!」
「あんた何でタライ持っとるん!?」
「あの男に落とすつもりで持ってきたんや!力やと敵わんからな!」
「どう考えても私巻き込むやろ!」
「それ気付いて落とせなかったんや!無断で持ってきたから今から説教されてくる!アンタは休んどき!!」
「アホか!!ありがとうな!!!愛しとんで!!!」
「私もー!!!」

友人はからから笑ってデカいタライを持ちながら職員室へ向かう。なんかズレているくせに、どこまでも良い奴なのだ。
何だか心が軽くなる。

「良い友達やな」
「ほんまにな」
「四季、立てるか?」

北がしゃがみこんで私に手を差しだす。
北も、とんでもなく良い友だちだ。
マジでなんでこんなに面倒見てくれるんやろ。
手を取って腰を上げようとして――

「…立てへん」

へにゃりとその場に座り込む。短くしたスカートがふわりと地面についた。パンツ見られたかな、まあ仕方ないけど。
何でだろ、こういうの慣れてたはずなんやけどな。ついてこられるのとか、そういう目で見られるのとか。ここまでのは久しぶりやけど。

「…ちょっと待ってな」

北はそう言って肩にかけているジャージを脱いで、私に渡した。

「腰に巻き」
「うん」

言われた通り腰に巻く。これ北のジャージ伸びちゃうんじゃないか。普段はあんまり気にしないけど北だとやっぱり別だ。
なんか、人よりずっと丁寧に接さないといけない気がする。

「ほい、巻いたで」
「ん、じゃあ肩掴め」
「……?」

北が私に背を向けて至近距離でしゃがむ。私はたっぷり十秒フリーズしてから、肩を掴んだ。


「死んでもええか…」
「死なれるのは困るなあ。四季こういうの慣れてるもんやと思っとったわ」
「まず休日にまで一緒に会う男子が北しかおらん」
「そうなん?」
「北は特別な感じするやんな」
「分からんわ」
「北に遊んでるみたいに思われるん嫌や……アイツみたいなクソ男ならもうどうでもええのに…」
「すまん」
「まあ私のイメージなんて何となく知っとったけど…」

おんぶで保健室まで連れて行ってくれるらしい。
北絶対少女漫画出れるで。才能ある。
モゴモゴと北の肩口に額を当てた。北、温かいな。
少し北を覗くと穏やかな表情で口角を柔らかく上げていた。うわあ、破壊力すごいな。
そして前を見たままポツリと言葉をこぼす。

「俺、四季の特別なんやなあ」
「気が付かなかったん!?大好きやし!愛しとるよ!人間として!!」
「人にホイホイそういうこと言わんでええ」

北以外には言わない。というか北と家族と友人以外でそこまで言おうと思わない。
北は神様みたいなもんやし。
下心なんて見せることなく接してきて、当たり前みたいに親切で、ちょっと怖くて優しいかみさま。
北の首に腕を回して、バランスを保つ。胸が当たるが、まあ北なら大丈夫だろう。

「痩せすぎちゃう?」
「細い方がスタイル良く見えるやん、まあもっと食べろって言われたら余裕やけど」
「ならちゃんと食え」
「えー…」
「無理なん?」
「ちゃんと食います」
「それがええよ。四季、食べ方綺麗やし」
「…」
「人の背中殴んなや」

そうか、気が付いた。最近暗い中一人で歩くことが減ったからや。北とかタライのあいつとかが、いつも一緒にいる。

「…北もええ友達やなあ」
「今更か」
「何なんその自信。前から思っとったし。噛み締めただけや。…あ、そういえばこの爪塗ったんやけど可愛くない?」
「俺に意見求められても困る」
「まあ北がそういう奴やってことは知っとったよ」

北は私の「かわいい」に理解がない。髪を染めるのも、ピアスを開けるのも、スカートを短くするのも、北には理解されない。私と北の感性は基本的に不一致だ。だから、北とは一緒にいることができる。男子なのに、怖くない。

「あー北ほんまに好き」
「ホイホイ言うな言うとるやろ」
「北くらいにしか言わんて言うとるやろ」
「……」
「なあ無視せんで、頼む、北に無視されるといたたまれん。なあ!」
「やかましい」

一蹴。
耳元で騒いでごめんなさい。でも視線が痛いんですよ。絶対勘違いされるやんかこんなん。北と勘違いされるんは嫌や。もっと神聖なんやから北は。
そう熱弁すると、また無視された。



Back