「四季、学級会入ったから掃除の続き頼む!」
「は?」
そんなわけで少しばかり私がぶすくれながら教室の掃除をしていると、北から「ホコリ残っとんで」と指摘の声が飛んでくる。
姑かお前は。
「うああ…最悪や…許せんあのクソ学級委員…北と一緒やなかったらキレとる…」
「別に今もキレとるやろ」
北を見ると、私より高い位置にあるつむじが見えた。しゃがみこんで掃いているのだ。
北は丁寧に、真面目に、全部「ちゃんと」やる。だから文句のひとつもつけられやしない。
「北」
「何や」
「そんなに毎回毎回真面目に掃除しとるん、北だけやで」
「四季も付き合ってくれとるやろ」
「サボれるもんならサボるよ。北が怖いだけや」
「はは」
「何笑っとんねん」
笑顔かわいいな。ちょっとおちょくられてる気もするけど、そんなことだけでも胸がドキドキするんやこっちは。まだ恋やないけど、まだ恋やなくても、ドキドキする。
北が持つちりとりに、集め直した塵を掃く。
「やっぱ北のこと苦手やわ…めちゃくちゃ好きやけど…友達的なイミで」
「俺も好きやで」
「なんでそないなこと言うん!?」
「手止めるな。はよゴミ掃け」
「はーい…」
ゴミを掃いて、ゴミ箱に捨てた。
あとは机を移動させるだけだ。…もう少し話していたいから、ゆっくり運ぼう。今日は北も部活ないはず。
北ってなんでこんなに私と違うんやろ。
いつもスンッてしてるし、いつも丁寧に生きてるし、常に正論パンチだし、その割にたまに爆弾みたいな言葉投下するし。
「北、進路決まった?」
「おん。四季は?」
「決まった。専門行く」
「勉強分かるか?」
「心配してくれとるのはわかるけどめちゃくちゃ不名誉や…北は理系?」
「ああ。四季は文系か?」
「おん。文系は赤点取ったことないからな」
「赤点は取らないのが普通や」
「普通は個人によって変わると思いまーす」
「赤点は変わらん」
「北の正論パンチ効くからやめてや」
でも、そっか。ならもう同じクラスなれへんのか。それはちょっと淋しいかもな。
机の足に制服が当たらないように、机を持つ。教科書を入れたままなのか重かった。
「淋しくなるなあ」
ゴンっと、自分の抱えていた机が落ちる音。
崩れずに落ちたのが救いだった。
「は!?心読んだんか北!?」
「思ったこと言っただけや」
開いた口が塞がらない。
北はそんな私を見て、また笑った。
いつもなら「やかましい」って言うところやのに。
「北、私と話せなくなるん淋しいんか」
「まあ四季ほど話しかけてくるクラスメイトも、面白い奴も居らんかったからな」
「あかん私泣いてまう…北が思ったより私の友達しとる…」
何アホなこと言っとるんか分からんけど、と北が言う。
なぜそんなに流れるようにアホとか言うんや、その通り過ぎて何も言えへん。
「俺は四季と話すの楽しいで」
「うわーん北好きー!!!」
「抱きつくな」
「ハイ」
北から離れる。北の耳が赤かった。
「何で照れるん!?恥ずかしくなるやろ!」
「抱きついた奴が言うな」
「その通りやけど…」
そういえば前つけてたヘアコロン付けないようにしてみたんだけれど、どうだろうか。モテたいという話を北にしたとき、つけないほうが良いと言う意見をもらったので参考にしたのだが。
「…」
「…」
沈黙。いつもは苦にならないはずなのに、とても苦しい。
先ほどまではゆっくり運んでいた机を、小走り気味で運ぶ。
「急ぐと転ぶで」
「心配はしてくれるんやね!ありがとう!」
北はどういう神経しとるんや。こういう空気にしたのアンタやろ。いや、私か?
何だ、何なんだ一体。好きってこんなにむず痒いワードだったか。
いつも好きを返されなくたっていい。返してくれたら嬉しいけど。何故か、北に好きを返されてしまうとしゃがみこんで死にたくなる。
北みたいなやつの友達に私は値しないとか、そもそもこんな風になるって友達って言っていいのかとか。
『男子と女子やし、意識しないなんて無理やろ』
隣の席の彼の言葉が脳裏をよぎる。
北と私は、友達。まだ、友達でいたい。
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