⚠ボーダーバレしてます


「…ッ、ふ……奈良坂………ぬいぐるみ…」
「大き過ぎる」

太鼓の音、蝉の声、じわじわと体を侵食する熱。夏休みの割と終盤に訪れる一大イベント、夏祭り。多分ここが青春の最前線。そんなところに、私と奈良坂はいた。
イケメンには何でも似合う。その言葉を痛感している最中である。

「奈良坂、私コンソメとチーズのフライドポテト食べたいんだけど二人で半々にしない?」
「よく食べるな」
「しないってことですねぬいぐるみ王子」
「その呼び方はやめろ」

ボーダーでの訓練帰り、出店で射的の景品を大量に獲得した私たちは荷物を抱えて屋台のご飯を買っていた。ゲームや特に必要ない小物類、女の子受けしそうな大きいぬいぐるみ。全力でじゃんけんに臨んだ私に負けた奈良坂は、私にぬいぐるみを押し付けられていた。

「奈良坂…冷たい奴め…おばちゃん、どれくらいならポテトにコンソメかけていい?」
「隣のイケメンに免じていくらでもいいよ!」
「やっぱ奈良坂最高だね!」
「自分の発言を思い出すべきだと思うが」
「過去は振り返らない主義なんだよね」
「ボケ始めたか…」
「気を遣うような顔すんな」

小さな紙袋に多めに盛られたフライドポテト。それを他の食べ物も入った屋台のビニール袋に崩れないようにして入れ、持つ。

「どこ座る?」
「井伊の背後12メートルほど行ったところに座れる石段がある」
「こ、こまけえ……」
「冗談だ」
「分からないその冗談は」

冗談云々は置いておいて、座れるところがあるのは本当だったらしい。境内の空いている石段に私たちは腰掛けた。

「ポテト美味しい〜!コンソメは偉大」
「良かったな」
「こればかりは奈良坂に感謝」
「お前はいつも一言多い。素直に感謝しておけ」
「はいはい奈良坂くんといられて毎日幸せですよーっと」
「……」

もぐもぐとあまり体に良くない食べ物を口に運び続ける。体に良くないものは美味しいのだ。

「あれ?奈良坂と井伊じゃん」
「米屋…と出水?奈良坂、呼んだの?」
「呼んでない。また別で来たんじゃないか」

二人が私たちのところへ来る。「熱愛?」とニヤケながら言う米屋に「超熱愛」と返事する。奈良坂は微妙に不服そうな顔をした。ポーカーフェイスな奈良坂と言えど、付き合いが長いとさすがに表情の変化は分かる。

「そのメンバーなのに三輪いないんだ」
「秀次は旧東隊で焼肉行くって」
「珍しい上に死ぬほど羨ましいなそれ」
「おれも焼肉行きて〜。太刀川さんここ最近レポート提出詰んでるから無理だけど。井伊は何で奈良坂といんの?」
「歌歩ちゃん誘ったら普通に先約いたから奈良坂引きずって連れてきた」
「奈良坂二番目の男じゃん」

米屋が笑う。
仲の良い男子ランキングだったらまあ上位の部類だ。
これは後になって知ったが、奈良坂は米屋たちの誘いを断って私に引きずられたらしい。やっぱ奈良坂は最高に良い奴だな!と言うと、ゴミを見るような目をされたことを報告しておきたい。

「まあ奈良坂も奈良坂で楽しいけどね」
「上から目線に評価するのがお前の欠点だと思う」
「やばい、ぬいぐるみ抱えてるせいで指摘が痛くも痒くもない。一個しか欠点がないって言ってくれてるようにすら聞こえる」
「耳がおかしいのか?これ降ろすぞ」

辛辣な言葉と共に奈良坂がぬいぐるみを降ろすような素振りをする。

「土で汚れるじゃん!」
「早く食べ終われ」

私たちが言い合いをしているのを見て、何で奈良坂誘ったの?と出水が訊いてくる。聞くまでもないことだろうに。
大き過ぎるぬいぐるみを持たされている奈良坂にチラリと目を向けてから、首を傾げた。

「私と奈良坂がこの射的以外で夏祭り一緒に来る理由なくない?」
「デートしてんのかと思ったわ。まあお前らそういうのじゃねーもんな」
「奈良坂はちょっと…イケメン過ぎてデートは…美少女の私でも燃えそう…」
「何故俺が貶されるんだ」
「美少女スルーされると死にたくなるんですけどイケメンの奈良坂透くん」
「事実だ」
「あ゛ー!!やめろ!!奈良坂が私褒めるの何かキモい!!!」
「……てかさあ、」

夏祭り一緒に来てたら燃えるも何もなくね?という出水の言葉を無視した。ついでに出水から目を逸らす。
仕方ないだろ、友達と夏祭りだー!なんてちょっとウキウキしていたからそこまで考えていなかったのだ。

だからその大荷物か、と出水が私たちの横に置かれたおもちゃたちを見て言う。
これ中学の頃流行ってたやつじゃん、とガラクタを手に取る米屋。本当に取られるとは思ってなかっただろうなあと、私も少し汚いパッケージを見つめた。

「二人ともそのおもちゃいる?」
「いらない」
「ここの射的屋のおじさん、スポーツマンシップなのかなんなのか知らないけど景品でズルしないんだよね。ほらこれプレステ」
「プレステ欲しいわ。出禁くらった?」
「プレステはあげない。出禁はくらう寸前にやめた。あと一回やってたら出禁だった、私のサイドエフェクトがそう言ってる」
「サイドエフェクトの用途そこじゃないだろ」
「撃つ時も使ってるし…」

たこ焼きを食べ終わったので、フランクフルトを取り出して奈良坂の口元に差し出す。

「はい」
「…ありがとう」

奈良坂は少し私を見てから、ケチャップの乗った部分をポキッと食べた。美味しいことが分かる食べ方だ。

「は!?食べ過ぎでしょ一口大き!?そんな顔して!?ギャップ狙いか!?」
「井伊、うるさい」
「いやおまえら…ええ…」
「どしたの出水」
「さあ」
「弾バカ、疑問覚えるだけ無駄だと思うぜ?井伊割とアレだし」
「まあ大分アレなのは認める」
「何で私単体で貶されるんだよ」

お前らやっぱ付き合ってたりしねーの、という出水。私のタイプは黒髪だから…と返すと米屋が「オレ?」と笑った。まあ米屋は良い奴だけども。今この場では良い奴ランキング一位は奈良坂だ。ポテトでの恩恵が大きい。このタイプ談議必要なかったな。

「んじゃオレたちは行くわ。またな」
「ああ」
「出水、今度蜂の巣試したいから模擬戦しよ」
「井伊はおれに恨みでもあんの?」


「カーッ!生き返るー!」
「…暑い」

プシ、とラムネのガラス玉を落として飲む。奈良坂には、クーラーボックスで氷に埋もれていた麦茶。

「奈良坂、行かなくて良かったの?」
「ぬいぐるみを持たされているからな」
「マジごめん」

…いや、最悪置いていってもよくないか?置いていかずに持っててくれるんだ奈良坂。井伊ポイント一万ポイントくらい加算しとこう。そんなものないけど。

「奈良坂、このおもちゃどうする?私はいつも毎年侵攻被害受けた子どもにあげてるんだけど」
「……」

奈良坂が私を見た。
私は奈良坂の瞳が好きだ。スコープ越しに撃ち抜かれた時から、忘れられない。
彼の瞳は侵攻で一人になったのはお前もだろうとでも言うのだろうか、責めるようなものではなかったけれど。

「好きにしろ。そもそも来るつもりも無かった」
「え……逆ナンされるから?」
「暑いからだ」
「つまんないなあ。まあ射的屋無双付き合ってくれてありがとう」

誰かを超えるために、誰かを倒すために、傷つけるために身につけた力は、別のところでもちゃんと使える。
それを知っておかないと、私はいつか私を殺してしまう。この毎年の生存プロセスに奈良坂が入ると、ちょっとだけ楽しいことが分かった。

「奈良坂来てくれて楽しかったよ。来年も……は来ないか」
「別にいい」
「えっマジ!?絶対誘う、取り下げ無しだから!」

奈良坂の横顔を見る。暑いのか照れているのか分からないが赤かった。いやそれが今一番知りたいんだよな。ポンコツサイドエフェクトだ。可愛い〜!と言えるかどうかが決まるのに。
まあ大方そんなことはありえないのが奈良坂透という人間像なので諦めた。

「……帰って一緒にプレステする?」
「しない」
「そこは乗れよ!」



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