パタパタ、ふよふよ、くるくるくる。御伽噺にでも出てくる妖精のような擬音語が似合う動きで、彼女は宙に浮いていた。
「何かあったのでござるか?」
万葉が声をかけると、少女は軽く首を横に振って、いつものように口を大きく動かす。
「ふむ……」
「ね」「む」「れ」「な」「い」「の」、パクパク口を動かして、恐らく彼女はそう言った。
万葉は彼女と会話をするために購入した小さな本を広げて、指さされていく文字を追う。
『からだがないから、からだがほしがるものはひつようない』
「……それでは夜は寂しいのではないか?」
『かずはくんのねがおみてるのたのしい 』
よ、の文字を彼女が指さして顔を上げる。
「……」
へへ、とでも言うようにふにゃりと破顔して、透けた行燈のひかりに瞳が反射したのが分かった。
なるほど、光なら彼女をとらえることができるのかと使い道のない思考が一瞬万葉の脳裏に浮かぶ。それをかき消して、万葉は少女に顔を近付けた。
女子特有のまるい輪郭や目をじっと見詰めていると、彼女はそっと目を逸らす。
透けている上に薄暗い夜では染まる頬に気が付くことができず、万葉は「嫌だったか」と的外れな気付きを得た。
「……拙者もお主の寝顔を見れればいいのだが」
「、?、!?」
万葉の台詞に、幽霊はバタバタと手を動かした。何も掴むものがないことで冷静になり、数秒の深呼吸。そして分かりやすく万葉から目を逸らし、開かれたままの本に慌てて視線を向け始める。
「、ふっ」
「も、」「う!!!」
「はは、すまぬ。少しからかってしまった」
ぺしっと鳴る音もないままに、彼女の手が万葉の手のあたりをすり抜けた。
突然の言葉に動揺したものの、急いで文字を探してわたわたとしている姿を見るのは悪くない気分だった。
こんなにも感情の出る彼女のことだから、恐らく声だって面白いくらい抑揚がついていたのだ。いつもの笑みに付随する声も、今のようにからかったときにもれる小言も、間違いなく綺麗なのだろう。
たとえしわがれた声だったとしても、万葉はきっと「美しいもの」だと形容する。盲目でもなんでもなく、その自信が万葉にはあった。
『ほんとうにみたいの?』
「うむ。可愛らしいのであろうなあ」
笑う万葉をよそに、幽霊は悲しそうな顔をした。それに気付いた万葉はしまった、と彼女の俯いたつむじを見た。
『かずはくん』
「———、」
『だめだよ』
わたしはゆうれいなんだから。そう続ける指先を止めようとして、彼女に触れられないことを万葉は思い出す。すり抜けた万葉の手を見て、少女は泣きそうな顔で「ばかだなあ」と笑うのだ。
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