「北くん、勉強教えてください」

深く、お辞儀。ゆるく三つ編みにしておろされた髪が頭を下げると同時に下に垂れた。綺麗に髪染まってるな、と自分でも思う。いや、そんなこと考えている場合ではない。
世は大テスト期間。活発な運動部すら部活動休止になり、勉強するしないは別として家庭学習をしなくてはいけないのである。

北くん、頼む。最後の砦なんだ。北くんの時間を奪うのは本当に本当に申し訳ないけれど、あまりにも物理がわからない。いや他の教科も大概わからない。文系教科はできるんだけどな、古典以外。
友人も理系教科に弱くないけれど、教えるのがめちゃくちゃに下手だ。できる奴にしか分からない解説をする。

「もう北くんしか」
「ええよ」
「えっ」
「ええよ。代わりに絶対授業寝たらあかんで」

北くんが、頭を上げた私の目を見てそう言う。

「はい!!北先生!!!」
「何で呼び方変えたんや。いつも通りでええ」
「ハイ北くんさん」
「強引に敬称つけんなや」
「北でいい?」
「別にええけど話はちゃんと聞けや」

やった!呼び捨てしてみたかったんだよな北くんのこと、ともうすでに思考が勉強から逸れだしていた私を北は一気に引き戻す。
本当に第二のママになってくれないかな。そしたらきっと生活習慣改善される気がするんだよね。自分で解決しようとしてないあたりダメなんだけど。

「四季はいつ空いとる?」
「今週来週は暇よ。やからいつでも」

あ、四季って呼んだ。名字でも北から呼び捨てにされると距離感が近くなった気がして嬉しいな。知り合いから四捨五入して友達くらいにはなれていたりするのだろうか。

「じゃあ朝でもええ?放課後は部活の奴らと予定あんねん」
「あさ…!」
「無理か?」
「え?北が教えてくれるんに遅刻するわけないやろ」

多分早起きしてダッシュしたら何とかなる。多分。北を待たせることは多分しない。

「そか」

短く返事をして、北が少しだけ私から目を逸らす。そちらに視線を向けると、教室の時計の下に委員長がいた。委員長は真面目な女の子で、うるさくなくて、髪を染めてなくて…つまり私とは真逆な女の子である。
北はああいう子が好みだったりするんだろうか。そしたらちょっと悲しいなあ、なんて思っている時点で多分私は北が気になっている。まあそんなこともある。

「四季?」
「ん、なに?」
「火曜日と木曜日の朝なら空いとるから、そこでええ?」
「うん!ありがとうな北」
「…迎えに行こか」
「え…まさか北って私の彼氏やったんか」
「ちゃうわ。俺が待ってたら走って間に合わせるなんてことできひんやろ」
「なんで走って間に合わせようと考えてるのバレたん」
「毎朝見とるからな」

ゴモットモ。
お願いします、と言うと真顔で確かに恋人みたいやな、と真顔で言われた。じゃあ一緒にパンケーキ食べに行こうよ。別に北とだったらどこだっていいけど。



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