「ハーイ、+++!アイスティー片手に難しい顔で課題と睨めっこしてないで、君の親愛なる隣人とおしゃべりでもどう?きっと君の人生にとっても有意義だと思うんだけど」

窓の外を見ると知り合いがいた。ちなみに我が家は学生アパートの3階である。

「スパイディ!わぁ久しぶり!あ、とりあえずどうぞ入って、窓だけど」
「ハハ、ドアじゃなくてごめんごめん。君が見えたから思わず声かけちゃったんだ」

ニューヨークの親愛なる隣人ことスパイダーマンが窓から我が家に入ってくる。
アメリカに留学に来てから、なんどか危ないところを彼に救ってもらった+++はすっかり彼に気を許している。そのせいか彼が訪ねて来たときはすぐにドアでも窓でも鍵をあけて迎え入れるので、その度によく危機意識やセキュリティについてお小言をくらっている。

「…それにしても、君は女の子の一人暮らしだろ。他人をこんなにホイホイ部屋に上げちゃダメだよ普通は」

セキュリティ云々の前に、3階の部屋にホイホイ窓から入れる人は物理的に多分そんなに多くないだろう。+++はそう思ったがまたお説教されるのもごめんなので黙ることにした。

「でもスパイディは大切な(友)人だし」

「…うーん、君は誤解されやすそうで心配だな…」

スパイダーマンはマスクの上からぽりぽりと頬をかいた。マスク越しなので表情はわからないが、どうにもくすぐったそうだ。

「えっ…ごめんなさい、なんか失礼なこと言っちゃった?」

「いやこっちの話。…あ、そうそう君に伝えておきたい事があったんだ。いいかい+++、今から僕が言うことをよく聞くんだ」

そういうとスパイダーマンは+++の肩に両手を置いて、子どもに言い聞かせるように少しかがむと静かだが迫力のある声で語りかけた。

なにか大きな事件でもあったのだろうか。
だから、しばらく会えないとか、日本に帰っていろとか、想像するのも悲しいがもう二度と会えないとか、言われるのではーーー、と+++は固唾を呑んでスパイダーマンを見返した。

「まずは特徴を覚えて。赤いタイツと、背中の日本刀、不愉快なおしゃべり。甚だ心外だけど僕にちょっと似た感じの赤いタイツの男ともし出会っても、絶対に声かけちゃいけないよ。目を合わせるのもダメ。僕の名前出すのもダメ。見かけたら一言も喋らずにすぐその場を離れるんだ。それからすぐに僕に電話すること」

「ちょっと待って急にそんないろいろ言われても覚えらんないし余計に怖い」

「君の身を守る為なんだ、ちゃんと覚えてね」

真剣な声のトーンで伝えられたのは不審者情報だった。赤いタイツ?日本刀?特徴がぶっ飛びすぎていて+++の頭には曖昧なビジョンさえ浮かばない。すこし肩透かしをくらった気分だが、スパイダーマンがあまりにこちらをじっと見つめて+++が頷くまで肩を離さないつもりのようだったので、とりあえず大人しく神妙そうな顔で頷いておいた。

「う、うん…?とりあえず赤いタイツの人には近寄らなければいいんだね?」

「そうそう、まぁ見た目からしてお近づきになりたいと思わないだろうけど」

「お、覚えとく…」


「あっそうだスパイディ!昨日ね、紅茶のシフォンケーキ焼いたの!けっこう美味しくできたから良かったら食べていって」

深刻そうに頷いた+++がパッと顔を上げてスパイダーマンに笑いかける。そのお人好しそうな笑顔に毒気を抜かれたスパイダーマンは、ともかく今は忌まわしい赤いタイツの男を頭から追い出して、この東洋の可愛らしい友人との時間を楽しむことにした。

「ワォ、いいの?こんな可愛い子の手作りケーキをご馳走になれるなんて、今日の僕はツイてるな」

「だッ、か、かわ、…ぜんっぜん、……こ、紅茶も淹れるね!!お湯沸かしてくる!!」

瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった+++は、眷属を生み出すためにキッチンへと走っていく。

「うん、ありがとう。………全く、今のであんなに照れられたらこっちも勘違いするじゃないか…。やっぱり君をデッドプールに見られるわけにはいかないな…」

部屋の主がキッチンに走り去った後、ニューヨークのスーパーヒーローは片手で顔を覆ってうな垂れた。マスクがもともと赤いおかげで助かった、と思いながら。

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