一緒に



敵に連れ去られた■■は、体の自由だけ奪われ戦場に現れた。
彼女を元に戻す術を、彼らは持ち合わせていない。

『殺して…、お願い…』

顔を涙でぐちゃぐちゃにして、■■は懇願する。
その身は味方の兵士の血で真っ赤に染まり、操り人形のように不自然な動きを繰り返すが、こちらの攻撃には的確な対処で躱してくる。

彼女を解放する術は、一つしか無い。




■zm


「わかった」

大切な彼女の懇願に笑って頷く。
ゾムの返答に■■も笑うと、最後の力を振り絞り勝手に動く体を御する。

彼女を正面から抱き締めると、剣の切っ先を背中に当てた。

『ゾ、ム…?』

行動に不審な目で見上げると、悪戯を思いついたような見慣れた笑みを浮かべていて。
剣を自分達の方へ勢い良く押し込んだ。

『かッ…ぁ…』
「っ……」

ゾムの剣は的確に二人の心臓を貫いた。
一緒に地面へ倒れ込むと、■■は同じく口から血を流すゾムを驚きの表情で見つめる。

『な…、で…?』

なぜ、ゾムまで一緒に。

「■■がいないと…、俺…寂しい、や、ん…」

そう言って涙を零すゾムに、■■もポロポロと零して笑った。

『―――』

向こうでも、一緒にいられるね。
口には出来なかったが、きっと伝わっている。

光が消えてしまったのを見ると、ゾムは手を伸ばし涙の痕を親指で拭ったあと、自分の瞼を下ろした。

繋がったままの剣に互いの血が溢れ、地面に滴り落ちていた。


■ut


スコープ越しに、■■が味方の兵士を次々と斬り殺している姿を確認し、煙草を咥える口の隙間から紫煙を吐き出す。

近接を得意とする仲間が動きを止めようとしているが、■■の方は手加減がなく上手くいっていない。
全員の中にある動揺と苦衷が、動きを鈍らせているのも一因しているが。

<大先生、本当にいいんだな>

「………ええよ」

通信機越しに再度、グルッペンが確認してくる。
懇願する■■をどうするかは、恋人である鬱に委ねられる事になった。

<…了解した。60秒後に■■の動きを止める>

吸いきった吸い殻を吐き捨て、呼吸を整える。
…50、…35……19…

…3、2、1。

― パアァンッ!

放たれた一発は、■■の心臓を貫く。
仲間は時間きっかりに彼女の動きを止めてくれた。
倒れて動かない姿を確認すると、ライフルをその辺に投げ捨ててヨロヨロと座り込む。

「はっ…、何時もやったら外すのにな…っ」

肝心な所でガバる自分を、何時も笑いながら怒るのは■■だった。

「ぅッ…、っ…」

手で目元を覆っても涙は止まらず。
空を仰ぎ見る。彼女はちゃんと、空へ昇れたんだろうか。

「大丈夫やで…」

内ポケットから新しい煙草を取り出し、火を点ける。
丁度最後の一本だった。
腰に挿した拳銃を手に取り、セーフティを外す。


俺も行くよ。君のいない世界は、息苦しいから。

屋敷の屋上から響いた銃声に、仲間たちが振り返った。



■eml


林の中を全速力で駆け抜ける。
戦場で探していた彼女と再会した。最悪の形で。
自分一人では到底■■に勝つことは出来ない。

殺して欲しいと懇願された。
でもそんな事、出来るはずがない。
何故大事な人を手に掛けなければならないのか。

考える間もなく■■からの攻撃が来て、仕方なく逃げた。
だが当然■■は追ってくる。

「〜〜〜ああもうっ!」

考えるのは止めた。
走りながらなんてそんな器用じゃない。
こうなったら道は一つや!これしかない!

さらに逃げ回って、体力も限界の頃。
突然立ち止まって振り返った。

勿論彼女との距離は詰まる。
ずっと泣いている、助けを乞うている■■に心は心臓を絞られてるように痛い。

『っ!?』

もうあと五歩、という所で■■の動きが止まる。
木々に張り巡らされた糸によって、勝手に動く体は封じられた。

息を整えながら、■■の目の前まで近づく。

『エーミール…』

俯いて放たれた声に最早生気はなく。
まだ拘束の中でじたばたする体を抱き締めた。

「ごめんな…、助けてあげれんくて…」

『なに言ってるの…、今までずっと、エーミールには助けられっぱなしだよ…』

戦闘能力は確かに■■の方が上だ。
しかしそれ以外がからっきしで、博識な彼には戦場の数以上の事を教わった。

『エミさんの講義…、とても好きだよ…』

「俺も■■が笑顔で聞いてくれるから、楽しかった」

ポケットから取り出したリモコンを互いの胸の隙間に差し込む。

『エーミール…?』
「まだまだ聞いて欲しいこと、いっぱいあるねん」

だからあの世でも聞いてな。
体を離し顔を見ると、穏やかに微笑んでいる。

迷うこと無く、スイッチを押す。
眩い光に包まれて、その場一帯は跡形もなく消し飛んだ。



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