Trick or Treat


※行動課夢主

「ふぅん……」
時間に余裕があったので何か本を読もうとタイトルや表紙を見ずに選んだ一冊にハロウィンについて書かれていた。百年前にバレンタインデーやホワイトデーといった行事があった事は【彼】が教えてくれて知っていたが、ハロウィンは初めて知った。ハロウィンも教えてくれれば良かったのに、なんてぼんやりと考える。そして本を閉じて、ソファから立ち上がる。今日は10月31日、百年前はハロウィンで盛り上がった日だ。作法は学んだし、実践あるのみだ。一体どんな反応が返ってくるだろうか。

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◆狡噛(恋人同士)

一番乗ってくれそうなのは、やはり恋人である慎也だろうか。読書家だし、知っている可能性が一番高い。そうと決まれば会いに行こう。
「慎也!」
「……何だ」
アポ無しで私室を訪ねれば、手にしていた本から私に視線を移した。慎也は暇があれば読書かトレーニングをしている気がする。
「トリックオアトリート!」
「……は?」
目を丸くするなんて珍しい。もしかして知らないのだろうか。いや、そんなはずはない。じっと見つめると、深い溜め息を漏らした。
「佐々山に教えられたのか?」
「ううん、さっき読んだ本に書いてたの」
「そうか」
【彼】の名前を聞くのはいつぶりだろう。胸が少し痛んだ。それを表情に出さないようにしながら会話を続ける。
「その反応だとやっぱり知ってるの?」
「まぁな」
予想通りだった。ただ、慎也がお菓子を持っているとは思えない。どんな悪戯をしよう。あっと驚くような悪戯をしたい。思い悩んでいると突然何かを投げられて、反射的にそれを受け取る。それは、個包装のキャラメルだった。
「……どうしたの、これ」
「昨日ギノに貰った」
「えぇー……」
余計な事をしないでほしいと心の中で宜野座に文句を言い、溜め息を漏らす。キャラメルをズボンのポケットにしまい、用は済んだと踵を返したタイミングで声を掛けられた。
「Trick yet Treat」
「……え?」
言葉の意味を考えて、ゆっくりと後ろを振り返る。するとソファに座っていたはずの慎也が後ろに立っていて、思わず声を上げそうになった。
「俺は菓子は要らないからな」
「いや、えっ」
「好きなだけ悪戯させてもらう」
獲物を追い詰める時と同じ笑みを浮かべた慎也から逃げる術を持ち合わせていない私はごくりと息を呑む。私の左側の頬に右手を添えた慎也の目は爛々としている。この後私は慎也にたっぷりと悪戯されるのだった。

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◆宜野座(恋人同士)

「伸元、今暇?」
「何かあるのか?」
「うん。トリックオアトリート!」
恋人の部屋を訪ねた私はすぐに用件を切り出した。伸元はぽかんとした後、数秒考え込むような表情に変わり、ゆっくりと口を開いた。
「何かと思えば……」
「今日はハロウィンだからね」
「……君は相変わらずイベントが好きだな」
【彼】に偽りのバレンタインデーについて吹き込まれた伸元が私に本物のチョコレートを渡してくれた事を思い出した。私の次に渡された狡噛がネタばらしをしたと知った時は勿体無いなあと思ったものだ。ちなみにホワイトデーはちゃんとお返しした。あの時はまだ付き合っていなかったけど、チョコレートをくれた事が嬉しかったから。懐かしさに頬が緩んだ。
「まあね。それで、お菓子は?」
「……切らしている」
「えー」
予想通りだったけど、残念そうに唇を尖らせる。これで伸元に悪戯する口実を得たわけだ。どんな悪戯をしよう。あっと驚くような悪戯をしたい。思い悩んでいると目の前にいる伸元の口角が上がっている事に気付き、何となく嫌な予感を覚えた。
「さて、俺の恋人はどんな悪戯をするんだ?」
「……いや、楽しみにされると何だかやりづらいんだけど」
はらはらするどころかわくわくしているんじゃないだろうか。別に酷い事をするつもりは全くないけど、期待されるとハードルが上がるじゃないか。些細な悪戯だと「この程度か?」なんて言われそうだ。困惑する私と期待する伸元というよく分からない事になってしまった。
「まぁ時間はたっぷりある事だし、じっくり悪戯してくれて構わない」
「構う、私が構うよ!?」
昼食後に来たのは間違いだったかもしれない。まだ日が高いので変な事をするわけにはいかないのに、もしかしなくてもそれを求めているんじゃないだろうかと予想して、私は左右に首を振った。しかし、部屋の主が素直に解放してくれるはずもなく、私はたっぷりと悪戯させられた。

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◆須郷(相互片想い)

「須郷さん」
「どうした?」
「トリックオアトリート!」
「……?」
ドアをノックして出てきた須郷さんにお決まりの台詞を告げる。須郷さんはハロウィンを知らないらしく、小首を傾げた。行動課の中ではイベントに一番疎いだろうなと予想していたのが見事に的中したようだ。
「……これはですね」
部屋に入れてもらい、ソファに向かい合って座ってからハロウィンについて教える。私に都合の良いように少しだけ内容を変えて。
「……というわけです」
「なるほど……」
私の説明を聞いてうんうんと頷く須郷さんを見ると少し嘘を混ぜた事を申し訳なく思った。とはいえ今から訂正するのもどうかと思い、流れに身を任せる事にする。
「お菓子はありますか?」
「……ないな」
返事を聞き心の中でガッツポーズをした。須郷さんにはトリックオアトリートは【お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ】という意味ではなく、【お菓子を渡さなければ悪戯しなければならない】という意味だと教えた。ポイントは須郷さんが私に悪戯するというところだ。真面目な須郷さんはどんな悪戯をするだろうか。期待でニヤけてしまいそうになるのを我慢する。
「悪戯……は何でも良いのか?」
「……はい」
何だか含みのある言い方だなと少し引っ掛かったけど肯定する。須郷さんは片手を顎に添えて考え事を始めた。その時間は短く、ソファから立ち上がり、私の隣にやって来た。
「須郷さん……?」
「……」
無言で隣に座る須郷さんが何を考えているのか分からない。私達の距離は拳一つ分くらいしか空いていないからどきどきしてしまう。隣にいる須郷さんの顔を見る事が出来ない。一体どんな悪戯をされるんだろうか。
「……悪戯されたい、なんて簡単に言わないほうが身のためだ」
「っ!?」
須郷さんの顔が近付いてきたと思ったら、耳元でそう囁かれた。鼓動が速くなり、ごくりと息を呑む。何か返さなければいけないと分かっていても、すぐに口を開く事が出来なかった。

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( 20201108 サイトアップ / 20201031 青い鳥アップ )

公安局夢主で灼と法斑も書きたかった……。
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