6月12日。他の地方が梅雨やら台風やらに騒いでいるにも関わらず、梅雨のないシンオウは今日も快晴。
相変わらず挑戦者の来ないナギサジムではこれまた相変わらずデンジがジムの改造をし、さらに相変わらずライラがデンジの周りをウロチョロとしている光景が見られた。
「デンジさん、デンジさん」
「何」
「今日は何の日か知ってますか?」
「ジムを改造する日」
「それ毎日じゃないですか〜そうじゃなくて、今日6月12日は恋人の日ですよ!」
「ふーん…」
興味などさらさらないという生返事をして外したネジをなくさないように傍らの箱へと入れるデンジ。
本日はどうやら回転床の改造らしい。
「だからねデンジさん、恋人らしい事をしましょう」
「え、ヤダ」
「じゃあほら早く支度してください!デート行きますよ!」
「聞けよ」
□□□
「そんな感じで来ちゃいました!ジョウト!」
無理矢理デンジを着替えさせ(もちろんセクハラしながら)ジムから引っ張りだしたライラはフリーザーに乗ってジョウトまでやってきた。
本当は実家に電話をしてセスナでも手配すればよかったのだが、今日のデートの事がダイゴの耳に入るとまた面倒になりそうなのでやめたらしい。
相変わらずダイゴはデンジを認めてはいない。(どんな男であっても認める事はないが)
「ま、フリーザーに乗った方が気兼ねなくデンジさんの腰を掴めて良いんですけどね」
「何の話だ…」
「いえいえ。それよりデンジさん、デートですよ!どこに行きます?」
「コガネのデパートとかで良いんじゃね?」
「も〜適当ですね!」
「帰るか」
「私もコガネシティ行きたいと思ってたんですぅ!」
腰のモンスターボールに手を掛けるデンジを必死に止めるライラの姿は実に情けなかった。
まぁ帰ると言ってもデンジは飛行タイプを持っていないためそれはただの脅しに過ぎないのだが。
「帰らないでください〜!」
「ふっ。帰んねぇよ。行くぞ」
「…え?」
「コガネ、行くんだろ?」
「……デンジさん今日は何だか優しいですね…」
「…帰「イヤ!イヤ〜!嘘です!いつも優しいですぅ!」」
そんなしょうもないやり取りをしつつも二人は無事に(?)コガネシティへとやってきた。
人の途絶える事のないコガネのデパートは本日も賑わっていた。
「デンジさん、手、繋いでも良いですか?」
「良いけど」
「はわぁ〜!し、失礼します!」
手汗の確認してからデンジの手を取る。
はぐれないようにする為か、下心か、繋ぎ方は恋人繋ぎだ。
「何か買うか?」
「そうですねぇ。特に欲しいものはないですけど…レントラーのぬいぐるみとか買いましょうよ!ナギサジムってチマリちゃん意外に可愛い要素ないじゃないですか!」
「ジムに置く気か。てかレントラーならぬいぐるみなんて買わなくても生でいるだろ」
「な、生とか言わないでくださいよ!…じゃあピカチュウ!」
「チマリがピカチュウの格好してるからいらん」
「それなら…」
「別に無理して買わなくても良いだろ。ライラがいたら十分可愛い要素あると思うけど?」
「え?(今デンジさんは何て言いました?私がいたら?十分?可愛い要素がある?空耳?本当に?え?ああああ、動悸が!)」
「はぁ、ひとごみって疲れるな。広場の方でも行かないか?」
他の地方とはいえ、ジムリーダーともなれば当たり前だが有名人である。先程から自身に向けられる数多の視線がいい加減鬱陶しくなったようだ。
勿論ライラがデンジの提案を退ける訳がないので二人は公園へと向かう事になった。
その間もライラの心拍数はどんどんと上がっていくのであったが、隣の男はそんな事は知る由もないのであった。
□□□
コガネシティ内にある公園へとやって来た二人はある人物と遭遇していた。
そのある人物を認識した瞬間にライラが苦虫を噛み潰したような顔をする。
ライラがそんな顔をするのはこの世に二人しかいない。一人は兄、そしてもう一人は…
「グリーン」
「よぉ、久しぶりだな」
「はぁ〜…何で私がコガネにいるといつも現れるんですか。あなたの巣はトキワでしょう?」
「いきなりその態度は何だよ!」
「私は今デンジさんとデート中なんです。邪魔しないでください。しっし!」
これみよがしにデンジにくっつき、虫を追い払うように手を払う。
その光景にグリーンは目をかっ開きまじまじと二人を見た。
「デート…?お、お前どんな妖術を使ったんだ!」
「妖術なんて使えませんよ!私とデンジさんは付き合ってるんですからデートくらいします!」
「ありえない…」
ヨロヨロとふらついて背後のベンチに座り込むグリーンは大袈裟だがその気持ちもわからなくない。
「デンジさん、こいつにどんな弱みを握られてるんですか?俺がシバいときますから無理しなくても大丈夫っスよ?」
「何言ってくれてんですかこのウニ頭!」
「だってお前考えてもみろ!デンジさんって言えばこの前a●anのイケメントレーナーランキングで三位の超モテ男だぞ!?お前みたいな変態と付き合う訳ないだろ!」
「ちなみに一位と二位は?」
「マツバさんと俺」
「デンジさんがイケメンなのは確かですがそのランキングは信用なりませんね」
「何だとこら!」
「マツバは中身を知らないからそんな事を言えるんです。グリーンなんてどこがイケメンか理解できませんし」
「これでも結構モテるんですけど!」
荒んだ目でツバを吐く仕草を見せるライラにグリーンが噛み付く。
完全に置いてきぼりを食らっているデンジはベンチに腰かけ、その言葉のドッチボールを聞きながら物思いに耽っていた。
「だいたい身内の私が言うのも何ですけど、ダイゴが上位にいない時点でおかしいじゃないですか」
「そういうのホントにダイゴさんの前で言ってやれよ。……とにかく、デンジさん、この変態が嫌なら言ってください」
「別に……嫌じゃないし、俺はライラが好きだから付き合ってるんだけど」
「「え」」
「そりゃ世の中にはこいつより可愛いやつもいっぱいいるだろうけど、俺に取って1番可愛い存在はライラなんだよ」
しれっと言い放ったデンジに二人は硬直する。
顔を見合わせ、ちゃんと息が出来ているか、世界は動いているかを確認した。
「デ、デンジさん今日はどうしたんです?」
「ん?いや、たまにはライラを見習うのも良いかなって思っただけ」
「私を見習う、ですか?」
「素直になるって事だよ。今日は恋人の日なんだろ?」
「…」
「どうした?」
「か、感動してるだけです〜」
感涙を流すライラにデンジは苦笑する。
その横で完全に蚊帳の外になってしまったグリーンは居心地悪そうに頭を掻くのであった。
「っふふふ、これでわかったでしょう?デンジさんと私の愛は本物なんです!」
「あ、うん…そう、みたいだな」
「それじゃあ私たちはデートの続きをしますから。バイビー☆」
「やめろぉぉぉ!!」
「お、おい、大丈夫か?」
「黒歴史を掘り返されて苦しんでるだけです。さ、行きましょうデンジさん!」
未だにボンジュールとバイビーは禁句であるグリーンを放ってライラはデンジの手を引いてその場を離れた。
歩きながらライラはデンジに先程の言葉の真偽を尋ねる。今更嘘だと言われても悲しいだけだが、めったに聞けない言葉の数々に少しばかり動揺していたのだ。
「ホントだよ。ライラは素直で可愛い俺の恋人だ」
「す、ストレートに言われるのってすごく恥ずかしいんですね...」
「いつも俺がされてるの、それなんだけどな」
赤面しつつにやけるライラに、デンジは冗談混じりに笑いかけた。
こうして優位になれるのなら素直になるのも悪くないと思いつつ、いつもより熱い彼女の手を取る。
「次はどこに行く?」
「あ、えと、デンジさんのおわす所なら何処でも!」
「ははっ、何だそれ」
はにかむデンジに完全に溶かされたライラも顔を火照らせながら笑顔を見せた。
(あなたがいればいつでも幸せ!)