prologue


中庭の一角、白磁のガーデンテーブルが置かれたこの場所は彼女の特等席だ。
日の光が程よく、喧騒は遠く。緩やかな時が流れる空間は彼女によく似合っている。

さて、彼女とはカルデアに在籍するサーヴァントの一人である。
正確にはサーヴァントではないが、人類最後のマスターである私の呼び掛けに応じてくれたのは確かだ。なので、ここではサーヴァントと呼んでおこう。

彼女がここにやって来たのは、オケアノスを人理修復し終えた直後。新しく力を貸してくれるサーヴァントを求めて召喚の儀式をした時だ。
恐ろしい程の重圧と神々しさを携えて現れた光景は今でも鮮明に覚えている。

カルデアには、伝説の英雄や時の名君、魔女に鬼に神。そんな英霊、神霊が数多に召喚されているが、彼女はその中でも類い稀な存在だった。
彼女は、神代もとうの昔に終わりを告げた現世で唯一といってもいいであろう、実体を持つ女神なのだ。

神の力とは、『神霊レベルの奇跡を起こせる生物が居たとすれば、それにとって聖杯など不要』と指摘される程の次元の外れた所業であって、地上ではサーヴァントとして従えるのは無論のこと、降霊させることすら不可能と言われている。ましてや実体を持つ神などもっての他。
しかし人理焼却という未曾有の災害が起きたこと、カルデアの英霊召喚システムの未熟さによる隙の多さ、そして何よりも彼女の気まぐれが重なりこうしてここに現界している。

「スピカ」

「あら、ご機嫌よう。何かご用?」

あまりに優雅で、あまりに耽美的。瞬き一つで国を傾けれるであろうこの女神、名前はスピカ。
人類史に名を刻まれていない無名の女神は、晴れの日の海のような瞳を細めて笑った。

「レイシフトかしら、マスター?」

"マスター"
そう彼女は私を呼ぶが、実のところ契約は交わされていない。
召喚に応じたのは確かだが、私とスピカの間に魔力パスは繋がっていなければ、当然令呪の効力もない。本当に彼女の気まぐれで現界し、カルデアに滞在しているだけなのだ。
それでも彼女は私のことを『マスター』と呼び、隣に立ってくれている。カルデアにいる理由も、何を目的にやって来たかも彼女は語らないが、ここにいる間は人類のために力を貸してくれるつもりらしい。

「今日はゴーストランタンを集めたくて」

「そう。それは沢山集められるように頑張らないと」

今日は誰が一番多く集められるかしら。
そう言い無邪気に微笑む彼女は間違いなく世界で一番美しい。




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