※関西弁がよく分かっていないので言葉があやふやです。エセ関西弁だったり、不快になられたら申し訳ないです。気にならない方のみどうぞ↓




4限終了のチャイムと共に生徒達が立ち上がって教室内がざわめく。学食へ行く人もいれば自席で弁当を広げる人もいる。自分も何食べよかなと、ぼんやりとした頭で考えながら学食へ向かう。4限の授業は世界史だった。眠過ぎて先生が何言うてたか全然覚えてへんけど。にしてもほんま腹減ったなあ、朝飯抜いてしもたから全然授業集中出来んかったわ...何食べよ

デカい欠伸をしながら歩いていると、北さんの姿を見つけた。後ろからびっくりさせたろ。そう思って近くまで行った時だった。

「北は今日も学食なん?」

その声の主は北さんよりもひとまわり小さい女子やった。これは...彼女だったりするんか?彼女やったらおもろい。恋愛とか興味無さそうな北さんに彼女いるって知ったら皆どう思うやろうなあ、サムに後で言うたろ。

「北さん彼女と廊下でイチャイチャせんといてくれます?」

そう言って北さんの肩に手を置くと、くるりと北さんがこっちを向いた。それに釣られてその彼女らしき女子も俺の方を向いた。

「なんや侑か。てか彼女ちゃうわ」
「え〜嘘つかんといてください」
「誰やこの人」

急にスッパリと会話を切られたような感じ。声を発したのは紛れもなく北さんの隣にいた女子やった。眉間にしわを寄せながらこっちを睨んでくる。えそんな睨む?俺何もしてないねんけど。

「部活の後輩や、名前は初対面か」
「せやなぁ。角名くんしか知らんわ」

どうやら彼女らしき女子は北さんの彼女ではないらしい。なんやねん。つまらんわあ。てか逆になんで角名だけ知っとんねん。

「侑、自己紹介だけしとき」
「北さんもう名前言うとりますけども」
「せやったわ」

「なんの茶番やねん」と女子からツッコミを食らう。聞けば彼女の名前は苗字名前と言うらしい。北さんに名前は先に言われてしもたけど改めて自分の口から自己紹介をした。

「2年の宮侑って言います。名前さんよろしゅうお願いします〜」

ニコニコしながらそう言うと名前さんは顔をしかめる。えまた?なんで睨むねん。

「なぁ、北。私この人無理やわ」
「いや名前さん急に辛辣なんやけど」
「だってなんかチャラチャラしとるやん。髪だってそうやし」
「外見しか見てへんやん、そんなんで嫌われるんやったら傷付くわ」
「え〜...うーん...なんかヤダ」
「適当か」

しばらく俺をじーっと見た後「やっぱなんかヤダ!」と言って北さんの背中に隠れる。めちゃくちゃ嫌われとるやん。意味わからん。納得いかんわ〜〜!!

「侑も名前も喧嘩せんとって」
「喧嘩してへん。嫌なもんは嫌!無理なもんは無理!」
「そんな言わんでもええやん!初対面でそれはないわ!」
「おい...」
「やかましいわどっか行け金髪頭!」
「はァ??名前さんの方がやかましいわ!」
「お前らええ加減にせえ!」

北さんの声でピタリと罵倒が止まる。視線を感じて周りを見れば、まぁみんなこっちを見とった。めっちゃ見られとるやん、恥ず。

「喧嘩するな言うてんねん、子供じゃないねんからちゃんとしいや」

せやけど北さんどうしても納得いかへん。外見しか見てへんのにここまで言われる筋合いないと思うわ、ほんまに。こうなったら内面も全部見てもらって好きになってもらうしかへん。決めたわ。俺は決めたわ。

すぅ、と息を吸って大きく吐く。ビシィッと名前さんに向かって指をさす。それにびっくりしたのか名前さんは肩を一瞬ビクッとさせた。

「名前さんよぉ聞けや!俺の内面も見てもらって絶対好きになってもらうわ!」

は?何言うてんねんこいつと言わんばかりの顔をする名前さん。ええねんええねん。絶対嫌いの類から脱出してやるわ。
険悪な顔つきでずっとこっちを見てくる名前さんにこれでもかってくらいにんまりと笑ってみせた。するとギョッとした顔で後退りする。あかんわろてしまう。

「なんかめんどくさい事になってしもた」

北さんその言葉は聞かなかった事にするわ。





__________





あの茶番から一日が経った。名前さんに好かれる為には何したらええかってずっと考えとった。結果、むちゃくちゃ絡みに行って自然に北さんと同じくらい仲良くなれたらええなと思った。うまくいくかはしらんけど。そうとなったら即行動せなあかんおもて、4限終了のチャイムと同時に教室を飛び出して3年教室に向かった。名前さんのクラスは7組らしい。なんで知ってるかって?そら昨日北さんにラインで教えてもろたからな。ハッハー!驚くやろなあ、名前さん。

ようやく7組に着いてキョロキョロとしていると机に突っ伏している名前さんを見つけた。なんや寝てたんか?

「ねぇあれ宮侑くんじゃない?」「え、なんでここにいるの?」とか周りから聞こえてくる。別にそんな珍しい事じゃないと思うねんけど。まあそんな事はどうでもええ。無視や無視。お構い無しにドカドカと教室に入って名前さんの席まで行く。ぐっすりやなあなんて思いつつ起こす為に頭をポンポンする。

「...ん」

低い声を発してむくりと起き上がる。目を擦って伸びをした名前さんとぱちり、と目が合った。

「おはようさん」
「...なんでお前おるん」

冷たい視線を向けられる。もうなんか慣れた気するわ。ほんで名前さんの手を掴んで立ち上がらせようとするとバシィッと手を振り払われた。力強すぎん?

「急に触んなや!」
「一緒に飯食お」
「はぁ?なんでお前と飯食わなあかんねん」

そんな言葉を無視して、机の上に広げられていたノートや教科書を机に突っ込む。「なに人のもん勝手に片付けとんねん」とか「うち北とご飯食うんやけど」なんて聞こえたけどもちろん無視。てかなんで北さんやねん。北さんしか友達おらんのかこの人は。

「片付け終わったで。ほな行くで名前さん」
「人の話聞いてた???」
「えなに?なんか言うた?聞こえんかったわアハハ」
「うわぁあホントヤダ!無理!ねえ北どこおんの!」

ギャンギャン喚く名前さんを引っ張り出して学食に向かう。周りにめちゃくちゃ見られたけど全然気にせん。にしても名前さんの手ちっこい。赤ちゃんみたいやな。白くて細くて柔らかくて。折れるんちゃうか?

「かわいいなあ」
「なにがやねん」
「それは俺だけの秘密やで〜」
「キモイなに考えてん」
「ほんまに名前さんは罵倒しか出来んの??まあ好きなだけ言っとけばええねん」


___

俺はそんで毎日毎日懲りずに名前さんにこれでもかってくらい絡みに行った。ダル絡みの領域を超えるくらいな。ほんまに、毎日毎日会いに行った。

そして今日も

「名前さん移動教室なん?奇遇やなあ」
「全然奇遇ちゃうわ」

次の日も

「おはようさん。寝癖ヤバいで」
「やかましいわ」

そのまた次の日も

「へえ名前さんカフェラテなんか飲むんや。なんか苦いの無理やわ〜って吐き出してそうなイメージやったけど」
「どんなイメージやねんシバくぞ」


んで話しかけ続けて1ヶ月経った頃。最初の頃よりかは距離は縮まった感じはすると思うんやけど、好かれてるのかは未だに分からん。いいのやら悪いのやら。優しい所を見せるべきなんかな?いやでもそんな事すると「偽善者キモ」とか言われる気しかしないわ。いやあわからへん。

「なあどうしたらええと思うサム」

休憩中、隣でスクイズを片手にスマホをいじるサムに話を振ると「なにがやねん」と言われた。まあそらそーなるわ。

「...ってスマホ教室に忘れてきた、取りに行かなあかん。めんどくさいわ〜〜〜」
「アホか、はよいってこい」
「はいはい」

重たい体を起こして、北さんに一言だけ伝えてから体育館を出た。にしても暑っついなあ、そろそろ夏本番か〜。暑さにやられそうなのを堪えて教室までの道を歩く。

「1.2、1.2!!」

ふと、校庭の方に視線を向けると、端で明るい声が聞こえた。どうやらチア部の練習らしい。あんな暑い中よう動けるわ〜凄いとしか言えへん。

「ほら足上がってへん!そうそう!それや!んで次は左から右に!」

その声の主に思わず「え」と間抜けな声が出てしもた。え、待て待て、あれ名前さん?見間違いちゃうよな?いやどう見ても名前さんやんか。部活やっとったん?聞いてへんで。いや部活しててもなんも思わんけどチア部?チア部なん??は??

「一通り出来たなあ〜、20分休憩!終わったらまた最初からやるで〜」

名前さんの合図と共に部員が散らばる。名前さんは自分のタオルとスクイズを手に取って、近くの水道場まで行く。なんか分からんけど何故か名前さんの所に行きたくなってしもて、俺も水道場まで行った。すると俺に気付いたのか、スクイズに向けていた視線を俺の方に移した。

「ゲッ、なんでおんねん」

こうやってしかめっ面されながら言われるのも、もう日常茶飯事や。名前さんの額から汗が流れて地面に落ちて、そして消えてった。ジリジリと暑い日差しの中。それを見た俺はより一層顔に熱がこもって行くのを感じた。

「や、スマホ教室に忘れてきてん。取りに行こおもて」
「そーなん。休憩中なん?」
「せやねん」
「ほー」

俺に向けられていた視線はまたスクイズの方に戻った。「今日ほんま暑すぎやろ〜」なんて言う名前さんに返事が出来んかった。

いつも髪の毛を下ろしとるけど、今日は赤いゴムで一つにくくってる。高い位置に結ばれた髪は風でひらひらとなびく。項の部分が露になって、後れ毛が出ているところ。太ももとか、二の腕とか、普段制服で見えへんからチアの衣装を身にまとった名前さんはいつも以上に色気があった。

ほんで、俺の理性を壊すのには十分なくらいやった。

「なんやお前無視か」

そう言われて我に返る。「や、無視してへん」と出た言葉はなんかぎこちなかった。なんやこれ、普通に会話できひん。思い出せ、いつもどう喋ってたか分かるやろ。

「部活入ってたんやな」

精一杯思い出してこれ。こんな感じやったっけ。いやいつももうちょっとおちょくってる感じで、ほんで...あかん。頭が回らん

「まあな。去年体調崩して出れんかったけど、今年は応援したい人が出来たから、頑張っとる」

名前さんの口かららしくない言葉を聞いて思わず顔を見上げた。少し口を尖らせてそっぽを向いている。暑さのせいなのかは分からんけど、ほんのり顔が赤かった。なんやその顔。好きな人でもおるん?あの名前さんが?応援したい人って、その衣装着て応援するん?たったその1人の為に一生懸命練習するん?何そいつ。贅沢な奴やな。ばりムカつく。

得体の知れない感情に取り付かれる。自分でも何が何だか分からんけど心底イライラした。

「そいつ誰なん。何年?何部なん」
「はぁ?なんでいちいち言わなあかんね「だってこんなん、」

名前さんの言葉と被せる。名前さんの細くて白い手首を掴む。汗で少し濡れとった。ほんま細い、柔らかくて、白くて。下に視線を移せば太もも、上に視線を移せば鎖骨がよく見える。正直目のやり場に困った。

「だってこんなん、名前さんかわいい。見せたくない。見せなくてええやん、俺だけ応援しとけばええやん、」

何故か後半声が震えてしまった。名前さんと目を合わせれば、大きく目を見開いてた。瞳がぐらぐら揺れてる。心臓の音がやたらと大きい。サッカー部とか野球部とか、たくさんの声で溢れているはずなのに全部遠く聞こえる。まるで2人だけの世界にいるような感覚。

「な、えっ、」

掴んでいた手首が少し震えていた。そしてまた額から汗が流れてった。驚いてる名前さんかわいい。びっくりした?実はな俺もびっくりしてんけど。

「俺じゃあかんの」

ぐい、と距離を縮めた。名前さんの顔がすぐそこにある。よく見るとまつげ長いんやなあ、とか目の横に涙ボクロがあるとか。こんな至近距離は初めてやったから、今まで気付かった事にも気付いてしもた。多分それだけやない、俺が意識しとるのもある。

どうやら俺は名前さんの事が好きらしい。気付かないうちに惚れてしまったんやろな。んでこの得体の知れない感情はきっと嫉妬や。だってこんなチア姿そいつ一人の為に着てるようなもんや。許せん。相手がどこの誰だかは知らんし、相手が北さんだったとしても譲りたない。掴んでいた手首を少し強く握った。

「....やねん」

ようやく言葉を発したと思いきや、顔を下に向けてボソボソと喋ってるから何言うてるか聞き取れんかった。

「なんて?」

すると名前さんゆっくり顔を見上げた。そしてまた目が合う。ぐらぐらと揺れている瞳に吸い込まれそうな勢いやった。


「...応援したい人、おまえやねん、」


頭が真っ白になった。暑さのせいとかじゃない。全身に流れる血液の流れが早くなった気がする。なんやねん、それ。

きっとさっきの名前さんよりも動揺してると思う。うるさいくらいバクバクと心臓が鳴り響いてる、名前さんの掴む手が少し震える。激しい動悸。息するのも精一杯やった。どうやら今の俺には余裕というものが無いらしい。

「それって、俺の事好きなんちゃう?」
「...」
「黙ってへんで答えてや、名前さん」

すると掴んでいない方の手でTシャツの胸元の部分をぐしゃりと掴まれた。きっと心音がダイレクトに伝わってしまう。

「好きやで、侑」

その言葉はぎこちなくて、声が震えていた。白い頬が赤く染っている。多分精一杯に発した声なんやと思う。決まり悪そうに口を尖らせた。普段の名前さんからは考えられないような表情。いつも俺の事お前≠ニしか呼ばないのに、この時だけ名前呼びなんてずるいと思うわ。

名前さんの全部が愛おしく感じて、掴んでいた手首を思い切り引いて抱き締めた。名前さんの心音が服越しに感じる。名前さんも俺と同じくらいなんやって嬉しくなって首元に顔をうずめれば、名前さんの匂いと汗が入り交じって鼻をくすぐる。白い肩、いっその事噛んでしまいたい。

行き場のなかった名前さんの手が俺の背中に回った。そっと撫でられてから手に力が入って抱きしめ返された。ずるい、ずるいねんほんま。不器用でかわいい。

「俺も好きやで、むちゃくちゃ好き、名前好き」

きっとこんなんじゃ足りんくらい好きなんやと思う。1回好きといえば止まらんくて、蓋をしてなきゃどんどん想いが溢れてくる。なんなん、俺むちゃくちゃ好きやん。ここまで来ると笑えてくる。

「好き好きうっさいねん、1回言えばわかるわ。恥ずかしい」

背中に回っていた手で、バシッと思い切り叩かれた。全然痛くもない。寧ろ愛おしく感じてしまうのは相当末期なんやろなあ。全部暑さのせいにすれば許されるだろうか。

「...春高、優勝してな」

言われなくても優勝する。絶対。名前の応援があるなら大丈夫や。勝ったらきっとむちゃくちゃ喜んでくれると思うし、たとえ負けたとしてもきっと一緒に泣いてくれる。名前はそういう人や。

「春高優勝したら結婚しよな」
「アホか!急に重たいんやけど!」

言葉はツンとしとったけど、名前は笑ってた。

暴言酷いけど不器用で、こうやって素直に気持ち伝えてくれたところとか、ずるいところとか。この先この子とずっと一緒に居たいと思う。大学行って、働いて、同棲して、結婚して。しわくちゃな爺さん婆さんになっても手繋げるような...

あ、もしかしたら俺重いかもしれへん。重すぎるわ。名前に言ったら「気色悪い」とか言われそうやから心の内に秘めとく事にした。


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