2



自宅で寝ていて目を覚ましたらここに居たのだとそのまま正直に説明してみたら「バカにしているのか!」と鯉登は目を吊り上げ怒りを露わにした。

『(やっぱりそうですよね…!!)』

非現実的な話しである事は名前も自覚しているが、しかしそれが事実である事には変わりはなく、更にこんな所で死にたくもないわけで、名前は懸命に説明を続けた。
そんな彼女の必死な様子に何か感じるものがあったのか、鯉登も頭ごなしに否定する事はしなくなってきたが、信じるに至るまでの決定的な何かがまだ足りないようで、彼は眉間に皺を寄せ難しい顔をしていた。

『すみません、私も質問宜しいでしょうか…』
「言ってみろ」
『ここは、何の建物ですか?』
「陸軍第七師団 聨隊兵舎だ」
『………へ……?』
聞き慣れない単語に名前は目を見開いた。


「そんな事よりも、お前の足元に落ちているそれはなんだ?先程からずっと気になっていた」
『足元…ですか?』
まだ色々と聞きたい事はあったが、今は鯉登に言われた通り素直に下を向くと、そこにはスマートフォンがあった。りんご社のものである。
それは今の名前にとって唯一の持ち物と言えた。

『これは…私のスマホです』

手持ちのスマホを両手で大事そうに握り締める名前とは反対に、鯉登はその聞き慣れない単語に首を傾げていた。

「すまほ、とは何なんだ」







ひとつのスマートフォンから話しは広がり、互いが互いに目を剥くこととなった。


名前が居たのは西暦2023年の時代だが、どういう訳か現在は1907年の明治の時代だと鯉登は主張する。

「馬鹿な。という事はお前にとってここは過去の時代とでも言うのか?」
『…そう、なりますね……』
「ならば私がその"すまほ"とやらの存在を知らなかったのもこの時代に存在しない物だから…」

指を置いて滑らせる事で操作が可能で、小さな機械に映し出されるそれは白黒ではなくカラーと来たものだ。
鯉登にとっては何もかもが前衛的であった。
"目が覚めたらここにいた"という名前の主張もそう言うことならば一応筋は通るかもしれないと鯉登は結論付けた。

「……本当に信じられない話しだが、信じるしかないのだろう」
『私も同じ気持ちです。でも、信じて下さってありがとうございます。事情を分かってくれる人がいるだけでも心強いですから……』

全く異なる時代背景のこの場所でどうやって生きていけば良いのか、それだけではない様々な不安が彼女の中で重くのしかかっていた。


top back