肉付きの良いあの子



昼食は基本的に将校集会所まで仕出しをしてもらっているのだが、たまには外で食べたいと、兵営の近場、師団通りにあるミルクホールへ足を運んだのがつい1週間前の話しである。
いつものように扉を開けば、煙草と食べ物の混沌としたにおいが、むわりと鼻を掠めた。

「ライスカレーを頼む」
『あら、鯉登さんいらっしゃい!いつもありがとうございます』
「…っ、うむ」
『後でお席にお待ちしますから、ごゆっくりどうぞ』

にこにこと人当たりの良い笑顔を残して去って行く給士の姿を鯉登は静かに目で追う。


「(今日もぽよぽよしておるな…)」
きゅっと口を真一文字に結び、なるべくいつも通りの自分を装いつつ空いていた席へと腰を下ろす。すると鯉登の背後に座る男らの会話がふと耳に入ってきた。

「苗字さん、今日も素敵だ」
「だかな、女にしては肉付きが…」
「そうなんだけど、そこがまた良いんだ」
「俺はもう少し細い方が好みだが」


脳天に一発打ち込んでやろうかと言わんばかりの形相で拳を固く握り、心の中で異を唱えた。細過ぎるよりは健康的で良いではないかと。むしろぽよぽよしていて可愛いではないかと。

そんな鯉登を他所に男達の会話は続く。

「乳と尻の曲線が実に素晴らしい」


「(…っ、)」
自分の想い人が性の対象として卑猥な目に晒されているというのはいささか気分が悪く、固く握られていた拳は今度は怒りで震え出す始末だ。しかしながら男らはそんな事は露知らず、会話は更に盛り上がる。

「俺さあ、この前躓いた時に腕が振れちまってよ」
「まさか……」
「柔らかくて最高だったぜ…」
「羨ましい!俺もわざと躓いてみようかな」
「へっへっへ。あのカラダにのしかかられるのもアリだ」

他に来ていた数人の男の客もその会話を聞いていたのか、にやにやと卑猥な笑みを浮かべている物がちらほらといて、女性客は気まずそうに下を向いている。
あんまりな状況と想い人への侮辱から鯉登の怒りはついに頂点へと達し、怒り狂った鯉登の恐ろしい形相は下衆な会話を繰り広げる男らの方へと向けられた。溢れ出る禍々しいオーラに男達はみるみる顔を青くし、慌ててテーブルに金を叩きつけると早々に店を出て行ってしまった。

鯉登はフン、と鼻を鳴らし顔をくるりと元に戻せば盆にライスカレーを乗っけた名前が目の前で涙をぼろぼろ流しているではないか。鯉登は何が何だか分からず、目をひん剥く。

「な、何故、泣いているのだ…!」
『わたし、こんな身体なのでっ…』
「…え……」
『お尻を触られたり、事故に見せかけて胸を触られたり…』
「…よくあるのか?」

こくりと名前が頷くと、鯉登の眉間にまた皺が寄る

『すみません、お客さんにこんな話し…。でも鯉登さん、怒って、くれましたから…』
「…もういい、謝らんでいい」
『は、い…っ』
「辛いのによく頑張ったな」

鯉登の優しさに触れた名前は更に涙をぽろぽろ流す。

『…鯉登さんみたいな方と一緒になれたらきっと幸せなんでしょうね……』
「キ、キエッ…!?」

ならば結婚して下さいとつい言いそうになったがぐっと堪えた。


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