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ゆらゆらと揺れる波と、船底からは常に白い水飛沫が豪快に舞い、どこからか吹いてくる風によって潮の匂いが鼻を掠め、肌にも髪にもしみついてしまう。上を見上げれば透き通る青にふわふわの白い雲。

本日モ晴天ナリ。

名前達は現在、北海道の根室に向かうため船に乗船していた。





「…うぷっ」
「鯉登少尉殿、大丈夫ですか」

船に乗船してから暫くすると、鯉登は船酔いをしてしまったようで、終始つくばったまま微動だにしない上官を見かねて月島は声を掛けるが、それに対して反応が返ってくる事はなかった。
船が目的地に到着するまではまだ時間がかかる為、少しでも横になって身体を休めた方が良いと結論付けた月島は、再び鯉登に声を掛けようと口を開いた瞬間に背後から肩をぽんぽんと叩かれる。振り返るとそこには名前が立っており、その手には水と何か包み紙のような物が握られていた。

『お疲れ様です月島さん。鯉登さんにお薬をお持ちしました』
「それはとても助かります」

青い顔をして蹲る鯉登に名前はゆっくりと近付いて行き、同じようにしゃがむと丸まった大きな彼の背中を優しく撫でる。
そして手に持っていた物をそっと差し出せば、それが薬だと察した鯉登は素直に受け取り、そのまま一気に水と共にそれを飲み込むのだった。

『そのお薬は私のいた時代の物で、効果が出るまで少し時間はかかりますが、"船酔いに強く効果がある"ので安心して下さいね』
一部を強調しつつ、薬について軽く説明をすると鯉登は小さく頷く。

一連の流れを傍観していた月島はひとつの疑問が脳裏に浮かんだ。酔い止め薬をピンポイントで所持しているなどと都合が良すぎるのでは、と。

「…変な薬じゃないだろうな?」
『まさか!実はあれ、ただのラムネ菓子で、薬ではないんです』

人差し指を唇に当て、にこりと笑う名前に月島は「は?」と呆気に取られた。

――プラセボ効果

薬を飲んだ、という行為により効果が生じるものだと人は思い込むもので、実際には有効成分は入っていないはずなのに、身体が反応して効果が発現してしまうことがある。それをプラセボ効果という。
船酔いに非常に効果があると強調したのも、薬がうんと効くと思っている人は実際に効果も出やすくなると聞いた事があったからだ。
信じる度合いの大きい人のほうがプラセボ効果は表れやすく、性格傾向で言うと協調性の高い人、俗に言う“素直”な人ほど効きやすいらしい。

「…なるほど。そういう事だったのか」
『鯉登さん、とても素直な方だと思いますし、それで症状が和らげば万々歳ですね!』






「鯉登少尉殿、まだ船酔いが治りませんか?」 
「早くまた戦争が起こらないものだろうか」
「……宿へ戻りましょう」

船からはとっくに降りてはいたが、プラセボ効果とやらが切れて酔いがまた出てきたのではと月島は少し気になったが、ただ単に鶴見に想いを馳せていただけだと分かり、鯉登の問題発言を聞かなかったことにしつつ背中を向けた。

(…苗字の目論見は大当たりだったな)



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