02
何故いじめられなければならなかったのか理由は今でも分からないし、同性にひどく苦手意識を持つようになってしまった。
トラウマというのはそう簡単に治せるものではなく、自分の今後の事について名前は様々な事を考えた。
結論、彼女は新品の男子用の制服を身に纏い、女のいる世界とは無縁の場所で新たな一歩踏み出すことにしたのである。
さあ、新しい学校生活の始まりだ、と言いたい所だが、内側も外側も壁にはグラフィティ・アートのような落書きで埋め尽くされていて、あまりにも治安の悪い光景に早くも足を止めるのだった。
*
「中途半端な時期かもしれないけど、新しい仲間が増えました。皆さん仲良くしてあげて下さいね」
人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら担任の手がぽんと名前の肩へと置かれる。
『……苗字名前です。よろしくお願いします』
名前にとって人に注目されるというのはやはり落ち着かないし慣れないもので、男子達の迫力や纏わりつくような複数の視線に表情は次第に強張っていき、最終的には自分の足元ばかりを見ていた。
*
「苗字くん…だったよね?」
ホームルームが終了し担任が教室から出て行くのを呆けたように見ていた名前は、背後から突然声をかけられた事に驚き肩を揺らす。
振り返ってみると、片方の目を覆う黒い眼帯と長いタッセルのピアスを付けた男の子がいて、目を合わせると彼はにっこりと笑顔を見せた。
そして彼の更に後方には色とりどりの頭の色をした男達ががわらわらと控えており、名前が身構える素ぶりを見せるとそれをすぐに察した蘇枋は眉を八の字にして申し訳なさそうにする。
「ごめんね、びっくりさせちゃったかな」
『いえ、大丈夫、です』
「そういえば自己紹介がまだだったね。オレは蘇枋。蘇枋隼飛って言うんだ。よろしくね」
『すおうくん…?うん、よろしく…』
にこりと笑う彼を皮切りに、教室の中ではわいわいと自己紹介祭りのような催しが始まっていて、場の雰囲気に流されるままひと通りの交流を交わす。そしてそれが終える頃には名前の体力は早くも底を尽きかけており、男子の活気はすごいものなのだと少しばかり感心する。
交流もほとぼりが冷めてくるとそれぞれが自分の席へと戻って行き、その場に残ったのは蘇枋だけとなった。
『あの、蘇枋くん…?』
席に戻らないのかと疑問に思いながら名前が恐る恐る声をかけてみれば、何か含みのあるような笑みを浮かべながら口を開く。
「……苗字くんさ」
『う、うん』
「この学校がどういう所なのか、よく分かってないでしょう?」
『え…あ、うん…?』
「まあ、色んな意味でちょっと大変かもしれないけど、頑張ってね」
『( 色んな意味でとは… )』
全てを見透かすような食えない蘇枋の笑顔に名前は少しだけ恐怖を感じた。
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