秘めたる想い

 
 昔々、あるところに小さな国がありました。その国は一年中花が咲き乱れ、鳥が歌い人が笑う、穏やかで優しい国でした。国にはお城があり、王様とお妃様と可愛らしいお姫様が住んでいました。三人はとてもとても仲の良い家族でした。

 ある日、お姫様は一人の剣士に恋をしました。誰に対しても分け隔てなく優しく接し、己の身を顧みずに他人に尽くすその姿に、恋をしてしまいました。
 それは決して叶わぬ恋でした。叶うはずがない恋でした。なぜなら一国のお姫様と一介の剣士が結ばれるはずありません。この恋が成就しないことはお姫様も分かっていました。
 しかし、剣士のことを想う気持ちを消すことなんてできません。
 目を閉じても、浮かぶのは剣士の顔でした。
 耳を塞いでも、思い出すのは剣士の声でした。

 お姫様は思い切って父である王様に相談してしまいました。それを聞いた王様は酷く激しく怒りました。それもそのはず、お姫様には婚約者がいたのです。
 いつも優しい王様が激しく怒る姿を見て、自分の恋が、どれほどいけないことで、愚かなことなのか気づきました。
 ですがもう、どうすることもできません。一度口にしてしまった言葉はお姫様でも消すことは出来ないのです。

 王様は、剣士を国から追放してしまいました。

 お姫様は悲しみました。王様に話してしまった自分を憎みました。もうこの国にはいない剣士に許しを請いました。毎晩。毎晩。泣いて。泣いて。
 お姫様の、宝石のようにきらきらと輝いていた瞳はすっかり生気を失ってしまいました。白く儚い瞼は痛々しいほどに赤く腫れあがり、鈴のような声はすっかり嗄れてしまいました。
 
 婚約が破談になってしまった時、王様の地に響くような嘆き声と、お妃様の金切り声、それとは反対のお姫様の嬉しそう笑いな声が幾重にも幾重にも折り重なり、奇妙な音が城内に響いていました。

 めでたしめでたし。




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