志村と水木


 十一月十一日。漢字にすると尚の事分かりにくいが、11月11日はポッキー(とプリッツ)の日である。棒状物ならなんだって良いような気もするこの日。花の女子高生である志村と水木は教室で、例に漏れずポッキーを食べようとしていた。

「ポッキー?」
「うん!だって今日はポッキーの日!」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよー、水木ちゃん忘れてたの?」
「忘れてたと言うか知らない」
「え、テレビCMとかでよく見かけるけど…」
「あたしあんまりテレビ見ないから」
「そうだっけ」
「うん」

 袋を開け、一本取ってはさくさくと音を立てながら食べていく。気付けば残り三分の二。数分経てば、もう二分の一。当たり前だが二人で食べればどんどんと減っていく。すぐに最後の一本になった。その一本をかけての真剣じゃんけん。水木の方がじゃんけんは強いのだが、食い気で直観力が増しているのか、今回は志村が勝った。勝利の喜びをポッキーの背にふんだんに乗せ、それを口へと運ぶ。しかし。
 ぽきり。それは、鳥居のチョップによって志村が咥えていたポッキーが折れた音だった。無残にもその先端は教室の床に落下してしまう。まるでそれは、走馬灯のようにゆっくりと、スロー再生されているかのように見えた。志村が目を丸くして鳥居を見れば、腹が立つほどににやりと笑っていた。が、絶賛混乱中の志村は何も言葉が出なかった。なにせただポッキーを食べていただけなのだ。だけなのに、突然鳥居が手を振りおろし、それを折られた。混乱するなと言う方が難しいだろう。

「んん!?」
「千本切りまであと九百九十二本!!」

 声高々に宣言をする鳥居。その意味不明な行動に、志村の中で何かが切れた。志村は無言のまま鳥居の胸倉を素早く掴む。どこにそんな力があるのか疑いたくなるほどにがっしりと。逃がす気はないらしい。そして、そのまま頭突きを食らわせた。
 額がぶつかり合う鈍い音と共に志村のツインテールが揺れる。双方の額は赤くなり、同時にその場に蹲る。ううとかあぐうとか言葉になっていない呻き声を、口から喉から漏らす二人。完全部外者になっている水木はただ苦笑いを浮かべることしか出来なかった。


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