怪物の作り方



 貴方にだけ特別に、怪物の作り方をお教えしましょう。

 まずは下ごしらえ。材料は出来るだけ新鮮で純粋で賢い素材が良いでしょう。

 傲慢で尊大で狡猾な素材を作るには、まず自信を持たせましょう。誰よりも優秀であるという誇りと、誰よりも未来を見据えているという愉悦感はとても良い味付けです。何かひとつ特別な目線で人々を分別できるようにしましょう。自分以外のニンゲンを愚民と見る目線、善人悪人と分ける目線、必要不要と分ける目線。どれでも構いません。準備期間は長ければ長いほどいい素材になります。短時間では少々物足りない仕上がりになるかもしれませんので、お早めにお取り組みになさるのが賢明かと存じます。

 それから調理。ここが一番難しくて最も重要な部分です。調理が失敗してしまうと怪物なんか出来ません。最重要ですので慎重に且つ円滑に行ってください。

 味付けは貴方の思い描くままに行って構いません。怒り、悲しみ、幸福への渇望、信頼、どれでも素敵な味付けになりますし、組み合わせを変えればさらに深みを増しましょう。ああですが隠し味に絶望を加えることをお忘れなく。
 復讐の炎でじっくりと焙煎すると香ばしくも深みがある怪物に仕上がりやすくなります。但し焦がしすぎるのは危険ですので注意してください。一度でも燃え上がってしまいますと、予想外の飛び火に見舞われることがあります。
 羨望と信仰心で蒸し上げるのも格別です。蒸せば蒸すほど信仰は狂気へと変貌していきます。しかし蒸し足りなければ只の妄信者。これは残念ながら失敗です。蒸し加減が大変難しいので細心の注意の元行いください。
 世界への諦観と社会への反発でからりと揚げてみるのもよいかもしれません。下ごしらえが十分ですと短時間で仕上がりへと向かいます。なにせ世界と社会なんて一番身近な日常ですので、その奇妙さ理不尽さに気が付いてしまえば勝手に揚がってくれます。しかし、何に対して破壊行動、若しくは意思表明するかは本人次第。予測不可能な行動に一喜一憂することになります。
 鬱屈と束縛で自我をぐにゃぐにゃに煮込んでしまう方法もあります。これは大変に時間がかかりますのでご注意ください。しかし丁寧に憎悪と言う名の灰汁を取りつつ、じっくりと煮込んでしまえばこっちのもの。反逆心なんて欠片もない、料理人の操り人形にすることも可能です。

 さあさあお次は盛り付けです。料理で何より難しく、何よりも楽しい作業。貴方は苦手ですか?それともお得意で?

 初めに料理が映えるお皿、いえ舞台を用意しましょう。料理がはみ出そうなくらい小さな舞台。はたまた料理自体が小さく見えるような大きな舞台。中途半端に長い舞台。歪な形をした舞台。
 どれでもなんでもかまいません。但しその料理に見合った、引き立てるようなものを選びましょう。
 それから添え物として台本を。朝日を浴びてキラキラと輝く物語。清廉潔白な物語。勧善懲悪の物語。真昼の影のようにほの暗い物語。じめじめとした湿気が多い物語。血の味がする刺激的な物語。
 どれでもなんでもかまいません。但しその料理に見合った、引き立てるようなものを選びましょう。


 完成しましたら晩餐会の幕開けです。本当にお疲れ様でした。貴方自身が丹精込めて作りだした怪物のお味、たっぷりとご賞味あれ。


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