19 立秋
指切りをした。誰かと。覚えているのは秋の風景だけ。金色に熟れた稲穂の海。田んぼの縁には赤い赤い彼岸花の群れ。空は朱色。雲は散り散りに浮き。乾いた秋風が景色を揺らす。幼い頃、約束をした。誰かと。また会おうと。けれど私は覚えていない。名前も、顔も、人かさえも。
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泣き虫坊主がおりました。今日もしくしく木陰に隠れ、小さな涙をぽろぽろと、ひとり社で泣くばかり。それを見ていた神様は、人にさわれぬ神様は、金木犀に手を伸ばし。泣き虫坊主を撫でるよに、そろりそろりと揺らします。小さな花がほろほろと、坊主の頭に降り注ぐ。それは、やさしいやさしい金の雨。
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目の前を 飛び行く虫の 名前すら 言えぬ君から 好きだと言われ
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微睡みの 海を漂う 君と猫 僕は一人で たい焼きを食む
夕暮れの ススキ野原に 影ふたつ はしゃぐ幼子 見守る老犬
追いかけて かけてかけての 三年間 未だあなたの 背中は遠く
満月に 石を投げつけ 泣く君よ 今日だけ特別 撫でさせてやろう
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裏庭の柿の木の葉が色づくころ、我が家には小さな客人が訪れる。秋晴れ続く日の黄昏時に彼らはこそこそと、彼らは慎重な足取りで柿の木の下へと向かっていく。裏庭が見える窓からひっそりと見ていると「今年もいい艶!色も素敵!」「ここの化かし葉は外れがないね」と二匹の狸は柿の葉を拾い集めていた
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今日はハロウィン。いつもはもの寂しい商店街も、今夜ばかりは仮装した人たちと見物客でごった返しています。十人十色の扮装で通りを練り歩く光景はまさに百鬼夜行。私も自慢の耳と尻尾をぴょこんと出して、その列に加わります。ご心配なく!まさか本物の妖怪が参加しているなんて、誰が思うでしょうか
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