20 立秋

 
「秋です!秋でございます!皆さん待望の、素敵な秋でございます!大変おまたせいたしましたこの涼やかさ!爽やかな風!!さあさあどうぞご堪能くださーい!ほらほら、秋でございますよー!!」年神の子ネズミが、ススキを振り振り大声を上げていた「うるさーーい!!」「ややっ」「秋は囁くものだ!」

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月を見て、狼男は吠えるという。月を見て、まんまる狸は腹を叩く。ぽんぽこぽんぽこ。軽快な腹鼓の音に誘われて、枯れ野にぴょこぴょこ毛玉が揺れる。ぽんぽこぽんぽこ。狸が寄ればお祭りが始まる。ぽんぽこぽんぽこ。腹を叩いて歌って踊って。みんなみんなにこにこ笑顔。お空のお月さまも笑う秋の夜。

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秋風に揺れるコスモスを見ると、胸がきゅっと締めつけられる。夕色に染まっていく空。影落ちた森の色。うろこ雲を得意げに指さしたあの日。どんぐりの宝石。すすきの尾っぽ。咲いたシオンの花。小川へ流した葉っぱの小舟。金木犀の小瓶。遠い秋の日の思い出が、弱った私を抱きしめる。

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リンゴを買った。買う予定はなかったんだけどあまりにも赤くて綺麗だったから、つい。さてさてどうするか。サクッと切るか、コトコト煮込むか、じわっと焼くか。君の運命は我が手中である。気が済むまで怯えるがよい。と悪役ぶって指で弾いてみる。真っ赤なリンゴは怯えるどころか誇らしく輝いていた。

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秋色に変わった山を見上げて山の神様は大きく頷いた。燃える赤色。優しい橙。鮮烈の黄色。常緑樹も良いアクセントだ。今年も納得のいく仕上がりになったと神様はもう一度頷いた。その傍らでは小間使いの猿たちが倒れていた。突然の衣替え提案を大急ぎで完遂したので疲労困憊のご様子。神様は苦笑した。

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小学生の頃から一緒の飼い犬が死んだ。僕が大人になったのを見届けて気が抜けたのか、死んだのは成人式の次の朝だった。大人になったはずなのに、僕は、動かなくなったタロの体を抱きしめて、子どもみたいに大声で泣きじゃくった。すると。ぴくり、耳が動いた

これはタロを乗っ取った自称大妖怪のお話

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にゃむにゃむ。にゃあにゃあ。家飼いのうちの猫が、野良猫と網戸越しに会話していた。元野良なので、野良あるあるとかで盛り上がっているのかな。ふふふ。
自室に戻り淹れたてのコーヒーの香りを堪能した刹那、ピンと来た。もしやあいつ、スパイなのでは。我が家の内情を外に漏らしてたり…。なんてね

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日が傾き始めると途端寒くなる。寒いなあと飼い猫の頭をひと撫ですると、ごろごろと地響きのような音を出して喜んでくれた。調子に乗って首、喉、背中、腹、と順に撫でていたら猫パンチ乱打をくらった。「動けるデブめ」と懲りずにわちゃわちゃ戯れていると「失礼な。冬毛だよ」と母の声が降ってきた。


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