20 立冬

 
よく咲いたシクラメンの茎を、ぽきんとひとつ折ってごらん。星も凍えるような新月の夜。冷たい冬をほろほろと柔らかくするような、小さな小さなランタンになってくれるよ。ステッキみたいにしゃんっと振れば、街路樹、庭木、山の木だって、きらきらスパンコールみたいに輝いてくれる。大人には内緒だよ
 
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鍋の中でくつくつと黒豆が笑っている。俺はその音を聞きながら、蒸かしたさつまいもを潰す。沢山食べたいからと大量に蒸したせいで山盛りの栗きんとんが出来そうだ。これは幸せがいっぱいだ。と、ばあちゃんと顔を見合わせて笑った。仕事納めをした姉は炬燵で寝ている。これが俺の家の、いつもの年末。

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ある朝、庭に植えてある三色菫の株元に小さな小さな熊が座っていた。精巧な置物かと思ったが、どうにも生きているらしかった。愛らしい熊さんは私を見ても逃げずにふんふんと鼻を鳴らしている。しばらくすると、飛んできた黄色いちょうちょを追いかけて、よく晴れた空へと元気にかけ登って行った。





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