裏路地のからあげやさん

 気づいたら裏路地に迷い込んでいた。細くて入り組んだ道の先に、ぽつんと佇む屋台を見つけた。
 ぱちぱちじゅうじゅう。なにかを揚げている音が聞こえる。看板が出ていたが字が達筆…というか正直なところ下手くそで、からあげやさん、と書かれていると推測できたのは、揚げる音と美味しそうな匂いがヒントになったからだ。
 覗いてみると、なんと屋台の店主は猫だった。人くらいの大きさで、チェック柄のエプロンをして、器用に菜箸を使ってからあげを揚げていた。
 「いらっしゃい」驚いている僕を気にすることなく猫は低い声で言った。
「あなた猫ですか」
「はいはい猫ですよ。人間のお兄さん、からあげいかがです」
「はあ。じゃあひとつお願いしようかな」
「500円ね」
「……あの、なんで猫が屋台を」
「やってみたくて」
「へえ」
「からあげをね、食べたいなあってずっと思ってたんですよ。でもダメだって飼い主から言われてて。生前はまあ飼い主の手前我慢してたんですが、死んじゃったらね、ほら悪くする体もないんでねえ」
 いい機会なんで始めちゃいました。と、猫の店主は少し恥ずかしそうに笑った。


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